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入学してすぐに、私はこの学校の異様さを目の当たりにする。
「何だテメェ、コラァッ!」
「アァッ!? 何見てんだコラァッ!」
不良と言われる人達を見るのが初めてで、私は出来るだけ接触しないようにする。
入学して数ヶ月、そろそろ学校にも慣れて、友達もそこそこに、私は油断していた。
自分は地味だし、賑やかに騒ぐようなタイプでもないから、そんなに目立ってないはずだ。
背丈だって普通だし、スタイルが特にいい訳でもない。
至って普通だと思う。
だから、今までも不良と言われる人達と接点なんてなかったし、どんな人がいるのかすら知らなかった。
それなのに、こんな形で関わる事になるなんて。
私の家庭は少々複雑である。
父と母は職場で出会って、キャリアウーマンで美人な母に惚れ込んでいた父が、魅力的でライバルの多かった母を射止める為に必死に努力をしたらしい。
私が生まれて少しして、母は飛行機事故で突然いなくなった。
それが原因で、父は壊れてしまった。
毎日お酒を飲んで、暴れて、また飲んで。
幸いな事に、私に手を上げる事はしないし、お金に関しても、貯金が趣味だったのと、遺産がたくさんあったらしい母のおかげで、今二人で何とか暮らせている。
私の仕事は、夜になると近所の酒屋さんにお酒を買いに行く。
そこは母の同級生の家で、うちの家庭事情を知っている為、私に何かあってはいけないと、私が未成年であってもお酒を売ってくれるのだ。
ありがたくて、感謝してもし切れない。
今日も、私は母の写真を見ながら泣く父を横目で見て、お酒を買い足す為に酒屋に走る。
お酒を袋に入れ、私に手渡す前に店主さんがジュースを袋に足して行く。
「これは私からのおまけね」
「え、そんな……」
「いいから。子供が遠慮すんじゃないわよ。ほら、早く帰らなきゃ、いくら近所でも夜道に女の子一人は危ないから」
「あ、ありがとうございますっ!」
相変わらず笑顔で手を振る店主さんに頭を下げ、私は急ぎ足で店を出た。
もう暗い夜道は、少ない街灯でしか照らされていないから、少し見えづらいけど、それでも私は軽く走っていた。
だから、止まるタイミングを逃した。
────ドンッ!
ぶつかった拍子に後ろへ倒れ、お酒の缶をバラ撒いてしまう。
「あーあー、大丈夫ー? って、あれ? うちの制服?」
「……酒?」
軽く打ったお尻を撫でながら、ふと見上げると、お酒の缶を拾ってこちらを見た人と、ばっちり目が合う。
最初の印象は“大きい人”。
次の印象は“怖い”だった。
「あ、あ、あの、か、返し、てっ……」
「あ?」
「っ……あ、そ、それ、か、か、返してっ、く、下さっ、ぃ……」
見下ろされる目が鋭くて、寄せられた眉がその目を更に攻撃的に見せていて。
学ランを着ていても分かるくらい、物凄く大きな体は迫力がありすぎて怖くて、喉が引き攣るみたいに震えて、声が上手く出せない。
無言がここまで怖いなんて。
こんな人から缶を奪い取るなんて出来るはずもなく、どうしていいか分からず、涙が滲む。
「あーあ、お前が凄むから、彼女泣いちゃったじゃん。大丈夫?」
「あ? 俺はまだ何もしてねぇだろーが」
「まだって……お前、まさかこんなか弱そうな子に、何かするつもりなんかよ……鬼畜じゃねぇの」
大きな人は、私の目の前にしゃがみ込み、缶を見せる。
「未成年で酒、ねぇ……。お前、見た目に寄らず、悪い子なん?」
「あ……あ、の……それ、はっ……」
「あ? 声小っせぇな。聞こえねぇよ」
「っ、ご、ごめっ、なさっ……」
少し声が大きくなり、それにまた身が縮んでしまう。
無意識に謝る私に、小さく舌打ちをした彼は、立ち上がる。
いつの間にかお酒が全て袋に戻されていて、もう一人の人が私にそれを差し出した。
「はい。急いでたんじゃないの? 行かなくていーの?」
「へ……あ、ありがとうっ、ございます……」
「いえいえ。んじゃ、行こっか?」
「……え?」
手を取られて立ち上がると、そのまま手を引かれて歩き出す。
疑問で頭がいっぱいの私を他所に、二人は私の前を歩きながら、談笑していた。
どういう状況なのか、パニックだ。
「ここが君のおうち? てか、暗くね?」
「あ、……ありがとう、ございました……。あ、あの、手……」
「あー、ごめんごめん。んじゃ、俺等はここで待ってっから、それ渡したら出ておいでー」
まだ何かあるのか。
だから、私に着いてきたのか。
私は、どうなってしまうのか。
ニコニコする男の横で、興味もなさそうにスマホを触る大きな男。
怖いけど、この二人から逃げる方が後が怖い。
私は父にお酒を渡し、聞いているのかいないのか、外出する報告だけして家を出た。
言った通り、二人は家の前にいた。
「よーし、じゃぁ、行こっか」
「あ、あの……何処に?」
「まぁまぁ、ついてくれば分かるよ」
私は今から何をされるのか、怖くて震える脚を必死で動かして歩く。
「ここ、は……」
「あ、もしかして、こういう所来るの初めて?」
煌びやかで、何処か怪しさもある建物。
実物を見るのが初めてで、呆気に取られている。
そして、先程より脚が重いのは、ここが何をする目的の場所かを知っているからだ。
“ラブホテル”
様々な人が、この建物の中で性行為をする。
私は、今からこの二人に、そういう事をされるのだ。
逃げたいけど、脚が上手く動かない。
「怖くなっちゃった?」
「っ!?」
肩に手を置かれ、耳元で囁かれ、体を固くする。
「震えちゃって……可愛いね……」
「トロトロすんな、さっさと来い」
「あっ!」
強く腕を掴まれ、引っ張られる。
抵抗するのに、全く歯が立たない。
ここまで力の差があるなんて、信じられない。
男女で多少の差があるとはいえ、この人は規格外だ。
部屋に入るなり、ベッドに投げられ、腕の掴まれていた部分がジンジン痛む。
「ったく、お前はほんと乱暴だな。自分が怪力ってのを自覚しろよ」
ベッドに倒れたまま、腕を撫でる私の上に影が出来る。
ベッドが揺れて沈み、私の視界は学ランの上着を脱いだ大きな体の男でいっぱいになる。
「ゃ……」
「あ? ここまで来て今更嫌がったって、遅ぇよ」
「いゃ、だ……許して、下さっ……帰してっ……」
「黙れよ……いきなり突っ込まれてぇの?」
低くてズシンッと脳に響くような声で凄まれ、私の喉からは小さく「ひっ」と声が出る。
「可哀想に。あんま怖がらせたら可哀想じゃん」
「ちっ、面倒くせぇ……」
涙が溢れ、怖くて震える私を見下ろし、大きな男は眉を寄せて舌打ちをした。
「予想だけど、君、処女だよね? あ、もしかして意外と経験あったりする?」
質問に首を振る事でしか答えられず、もう一人の男が私の頭を撫でた。
「そっかぁー、じゃぁ、俺等が最初の男かぁ。やば、めっちゃ興奮してきたわ。ほら、見てよ、俺のがもうデカくなって来てるの、ズボン越しにでも分かるっしょ?」
ズボンを持ち上げるみたいに浮き上がる、男性のそれを生ではないにしろ、初めて目にして体が冷える。
「大丈夫だよ。俺はこいつみたいに、女の子相手に酷くはしないから、安心してね」
「かぇ、りたぃ……」
「ごめんねぇ、それだけは聞いてあげらんないからなぁ。俺もヤる気満々だし」
私が願うこんな小さな願いすら、目の前の二人の男には無意味で、届く事はない。
私に残された選択肢は、我慢して、耐えて、今を乗り切るしかないのだ。

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