恋の予感

1/4
前へ
 /56ページ
次へ

恋の予感

 白いカーテンが揺れる、ウェディングサロン。 明かるい光にあふれる、オープンスペースのあちこちには、みずみずしい植物が置かれ、テーブルの上に置かれた小さな切花もかわいらしい。  普段は、黒い服ばかり着て、耳にジャラジャラとたくさんのピアスをつけている神来社暖(からとだん)も、今日はピアスを外し、白いVネックのシャツに、ベージュのジャケットを羽織ってきた。 ただ、銀色の髪は、隠すことができず、せめて…… と、後ろで一つに結った。  暖は、アクセサリーデザイナーで、今日はこのサロンで、お客様と打ち合わせの予定だ。 約束の時間より早く着いた暖は、デザインの見本のスケッチや、サンプル品を確認していた。  約束の時間になり、サロンのスタッフに連れられて、今日会う約束のカップルがやってきた。 今日のお客様は、筒香奏汰(つつごうそうた)さんと、仮屋恵茉(かりやえま)さん、ともに23歳。 仲のよさそうなカップルだ。 「こちらが、『Antares(アンタレス)』のジュエリーデザイナー 神来社さんです」 スタッフに紹介された暖は、にこやかな営業スマイルで、挨拶する。 「初めまして、神来社です」 「筒香です、よろしくお願いします」 彼のあいさつに合わせて、彼女も頭を下げる。 年の割に、落ち着いた雰囲気のある二人だ。  両者とも席に着くと、サロンのスタッフがコーヒーを出してくれた。 それに、お礼を言って、さっそく本題に入る。  今回の依頼は、結婚指輪のデザインだ。 用意していた、デザイン画や、写真、サンプル品などを見せながら、どんな指輪が欲しいのか、要望を聞く。  今回のカップルは、学生時代から付き合っているらしい。 彼は、今年の春から、社会人になったようだが、彼女の方の就職活動は、うまくいかず それならば…… と、結婚することにしたらしい。  ただ、彼も社会人になったばかりで、二人には貯えがあまりない。 そこで、形式にはこだわらず、気軽なレストランウエディングで、身近な人だけを呼ぶ、ささやかな結婚式を挙げることにした。 新婚旅行は、少し先にして、お金がたまってから。 婚約指輪はなし。 結婚指輪もできるだけお金をかけずに、でも、大切なものなのでこだわりたい…… そこで、完全オーダーできて、適度な予算で用意できる、『Antares』がえらばれた。  二人の意見を聞きながら、何枚かデザイン画を描いていく。 二人が選んだのは、少し立体的なひねりのあるデザインだった。 「…… そうだ、指輪の裏にイニシャルも掘りますが、小さな宝石もいれられます、どうですか? ブルーダイヤモンドなどが、人気ですよ」 そう話しながら、暖は、サンプルで持ってきた指輪を取り出し、内側にはめられた、宝石の場所を指さし、二人に渡した。 指輪を受け取った彼女が、嬉しそうに、指輪を眺めていた。  彼女が欲しそうなのを感じた彼が、宝石をつけてもらおうと提案すると、お金のないことが分かっている彼女が遠慮した。 「婚約指輪もないし、このくらいいいんじゃない? 」 「でも…… やっぱりいいわ、贅沢だもの」 「じゃぁ…… 恵茉のものだけでも入れてもらおうよ」 「いいの、結婚指輪は、同じデザインがいいの」 彼女の意志は固く、折れる気はないようだった。 結局、彼女の意見が通って、話は終わった。 「ごめんなさい、私ちょっと、お手洗いに行ってくるわ」 そう言って、彼女は席を立った。 彼女が遠くに行ったのを確認してから、奏汰がこっそりと暖に話しかけた。 「彼女は、ああいっていますが、宝石を入れてもらえませんか? 」 「え? いいのですか? 」 「はい、サプライズです。 彼女きっと、宝石を入れてほしいと、思っていると思うので」 「…… そうですね、俺もそんな気がします。 あの顔を見る限り、間違いないと思います」 暖がそういうと、奏汰は、ほっとしたように笑った。 その時、暖の胸の奥が、ドクリと鳴り。 望みの無い恋の予感がした。

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>