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本棚に追加恋の予感
白いカーテンが揺れる、ウェディングサロン。
明かるい光にあふれる、オープンスペースのあちこちには、みずみずしい植物が置かれ、テーブルの上に置かれた小さな切花もかわいらしい。
普段は、黒い服ばかり着て、耳にジャラジャラとたくさんのピアスをつけている神来社暖も、今日はピアスを外し、白いVネックのシャツに、ベージュのジャケットを羽織ってきた。
ただ、銀色の髪は、隠すことができず、せめて…… と、後ろで一つに結った。
暖は、アクセサリーデザイナーで、今日はこのサロンで、お客様と打ち合わせの予定だ。
約束の時間より早く着いた暖は、デザインの見本のスケッチや、サンプル品を確認していた。
約束の時間になり、サロンのスタッフに連れられて、今日会う約束のカップルがやってきた。
今日のお客様は、筒香奏汰さんと、仮屋恵茉さん、ともに23歳。
仲のよさそうなカップルだ。
「こちらが、『Antares』のジュエリーデザイナー 神来社さんです」
スタッフに紹介された暖は、にこやかな営業スマイルで、挨拶する。
「初めまして、神来社です」
「筒香です、よろしくお願いします」
彼のあいさつに合わせて、彼女も頭を下げる。
年の割に、落ち着いた雰囲気のある二人だ。
両者とも席に着くと、サロンのスタッフがコーヒーを出してくれた。
それに、お礼を言って、さっそく本題に入る。
今回の依頼は、結婚指輪のデザインだ。
用意していた、デザイン画や、写真、サンプル品などを見せながら、どんな指輪が欲しいのか、要望を聞く。
今回のカップルは、学生時代から付き合っているらしい。
彼は、今年の春から、社会人になったようだが、彼女の方の就職活動は、うまくいかず
それならば…… と、結婚することにしたらしい。
ただ、彼も社会人になったばかりで、二人には貯えがあまりない。
そこで、形式にはこだわらず、気軽なレストランウエディングで、身近な人だけを呼ぶ、ささやかな結婚式を挙げることにした。
新婚旅行は、少し先にして、お金がたまってから。
婚約指輪はなし。
結婚指輪もできるだけお金をかけずに、でも、大切なものなのでこだわりたい……
そこで、完全オーダーできて、適度な予算で用意できる、『Antares』がえらばれた。
二人の意見を聞きながら、何枚かデザイン画を描いていく。
二人が選んだのは、少し立体的なひねりのあるデザインだった。
「…… そうだ、指輪の裏にイニシャルも掘りますが、小さな宝石もいれられます、どうですか?
ブルーダイヤモンドなどが、人気ですよ」
そう話しながら、暖は、サンプルで持ってきた指輪を取り出し、内側にはめられた、宝石の場所を指さし、二人に渡した。
指輪を受け取った彼女が、嬉しそうに、指輪を眺めていた。
彼女が欲しそうなのを感じた彼が、宝石をつけてもらおうと提案すると、お金のないことが分かっている彼女が遠慮した。
「婚約指輪もないし、このくらいいいんじゃない? 」
「でも…… やっぱりいいわ、贅沢だもの」
「じゃぁ…… 恵茉のものだけでも入れてもらおうよ」
「いいの、結婚指輪は、同じデザインがいいの」
彼女の意志は固く、折れる気はないようだった。
結局、彼女の意見が通って、話は終わった。
「ごめんなさい、私ちょっと、お手洗いに行ってくるわ」
そう言って、彼女は席を立った。
彼女が遠くに行ったのを確認してから、奏汰がこっそりと暖に話しかけた。
「彼女は、ああいっていますが、宝石を入れてもらえませんか? 」
「え? いいのですか? 」
「はい、サプライズです。
彼女きっと、宝石を入れてほしいと、思っていると思うので」
「…… そうですね、俺もそんな気がします。
あの顔を見る限り、間違いないと思います」
暖がそういうと、奏汰は、ほっとしたように笑った。
その時、暖の胸の奥が、ドクリと鳴り。
望みの無い恋の予感がした。

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