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「何で鍵閉めるんですか? やらしい」
「……勘違いするな。収まるまで待つだけだ。こんな、二人して勃っているところを見られたら不思議がられるだろ」
すっかり元の調子に戻った東條からそっと離れて、その場に座った。互いに熱の籠った身体を、この場で解放してやることは出来なくもないシチュエーション。抜き合いでも何でも……。
けれど、散々仕事に注ぎ込んで来た今までの日々を裏切るような気がして、なんとか理性を保つ。既にキスしてしまっているが、そこには目を瞑らせて貰おう。
俺の心中を察してか否か、少し離れた位置で東條も膝を抱えて座る。
「佐山課長に汚名を着せてしまうのは嫌ですね」
「お前は指名の後とか、どうしてるんだ。勃つことも、あるだろ」
歯切れの悪い語調で、オブラートに包むように聞いてみる。自分のことばかりで、行為の後に東條がどうなっているかなど気にする余地も無かった。
キャストだから仕方が無いと言えばそれまでだが、今更申し訳なくなってくる。
「……課長と過ごしたこの前の夜は、その後本番が入ったので、やり過ごしたというか」
東條の方も暈しているようで、しかしはっきりと断言する。
本番。その言葉がなんだか重く頭に響く。
「そうか……」
不意に手の甲へ重なる東條の手のひら。自分のより少し大きくて指の長い、筋張った手。この手が何度も絶頂へと導いてくれた。それを思い出して、軽く手に触れられただけで、なんとか収めようとしている熱がまた疼いてしまう。
「俺が他から指名されてるの、嫌ですか?」
「はあ? 何言ってるんだ。そんなの、こっちは重々承知で」
「嫌って言ってよ」
ずい、と顔を近付けられる。理性を保とうしている努力が台無しだ。
「……やめろ。今は近付くな」
「答えになって無いですよ」
するりと手が離れて、再び距離を取る東條。本当は他の奴と本番まで致している東條を想像したら、心にもやがかかることに気付いてしまった。
「嫌だ」
心臓の音が加速してうるさい。こんなことを言ったら、東條を独占したいと言っているようなものだ。
俺だけが東條と、最後まで……。そう思ってしまった。
「本当ですか?」
嫌と言って欲しいと望んだ当の本人が驚いたように聞く。
「嫌なのは本当だ。ただ、東條を特別と思うことは怖い」
「そっか……ゆっくり考えてくれたら嬉しいです」
「考えてくれたら、って。東條は俺のことをどう思ってるんだ」
「俺は課長と付き合いたいですよ。前も言いましたよね、俺と付き合いませんかって」
前も、と言われて車中でさらりと言われたことを思い出す。
「あんなの冗談だと思うだろ」
「そうですね。すみません、あの時は正直興味本位でした。憧れの課長が実は夜になると可愛くて、付き合えたらラッキーくらいな」
「……なんだよそれ」
「でも、今、課長と初めてこんな優しい触れ合いをして、好きなんだなって思い知らされてしまった。単純だけど、本気ですよ」
単純。そうだ、恋愛なんて単純だ。だからこそ怖い。
興味本位から俺を好きになったと言う東條も、ついこの前まで苦手だと思っていた新入りにこんなに深入りしてしまっている自分も、明日には気持ちがころっと他に移っているかもしれない。
「一ヶ月下さい」
「一ヶ月?」
「一ヶ月経ったらもう一度、告白させて下さい」
真剣な東條の表情が瞳に移る。何も返せずにいると、ぱっと明かりが点いた。
急に光が目に入り、互いにぱちぱちと瞬きをする。
「復旧したのか、良かった」
蛍光灯に目線を移して、点いた明かりを確認する。
「思ったより長引かなくて良かったですね」
「ああ。作業は途中だがとりあえず戻って部長に状況を確認してくる」
腰を上げつつ言うと東條も「承知しました」と立ち上がり後に続く。疼いてしまった熱も、冷静に東條と会話をしたおかげでなんとかおさまった。ドアノブの鍵を開け手を掛けると、後ろから囁かれる。
「脈アリって思ってていいですか?」
「は……? 何で」
「俺が告白させてって言ったら、嬉しそうな顔してましたよ」
そんな顔、自覚していなくて。逃げるように足早にオフィスへ戻った。

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