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それからの毎日はあっという間に過ぎていった。千珈曰く「生殺し」のような夏休みは毎日のように二人で過ごした。千珈の課題を教えたり、家でのんびり映画を観たり、たまに外に出掛けたり、そばにいられなかった時間を埋めるように寄り添った。
二学期が始まると一気に学年全体が受験モードに切り替わる中、千珈は大学進学をせずに就職することを希望した。何度も面談をし、千珈の決意が固いことを確認した凪沙は、その意思を尊重することを決めた。
受験が近づくにつれて、凪沙の仕事も忙しさを増していく。それでも千珈と食事を共にすることが、凪沙にとって日々の癒しになっていた。
春が近づきクラスの生徒達の喜ばしい報告が次々と舞い込んでくると、凪沙はようやくずっと張り詰めていた肩の荷を下ろすことができた。
柔らかい風が吹き抜ける、穏やかな春の日のことだった。
「卒業おめでとう。このクラスはやんちゃな奴が多かったけど、みんな立派な顔付きになったな」
教室内をぐるりと見渡して、すっかり我が子のように馴染みのある顔ぶれに笑みがこぼれる。
「学校を出れば、お前らには自分の意思で選択することが求められる。今までみたいに決められたレールは存在しないし、自分の選択で人生が変わっていくことになる。大人になるっていうことは、責任が伴うってことだ」
義務教育を終えて、大人への第一歩を踏み出そうとする生徒達に伝えたいことを、凪沙は長いこと悩み続けてきた。
「きっと壁にぶつかったり、悩むことはたくさんあると思う。俺からアドバイスするのは一つ」
凪沙はそこで一旦言葉を区切り、再び口を開く。
「たくさん後悔しろ」
正面に座る生徒が、ハッとした顔をした。
「よく悔いのない決断をって言うだろ。あんなの不可能だ。どんな選択をしたとしても人間、後悔はするもんなんだよ」
凪沙の人生だって、失敗と後悔の連続だった。その繰り返しの先に今の凪沙があって、たくさん間違えたからこそ得ることができたものもたくさんある。
「たくさん悩んで、たくさん悔やんで、たくさん学べ。そんで、後悔した分だけ前を向いて、少しずつ成長していけばいい。まだおまえ達は若いんだからどうとでもなる」
ずっと真面目な顔で語っていた凪沙の目元が、ふっと緩んだ。柔らかな微笑みをたたえて、最後の言葉を贈る。
「幸せになれよ。──以上」
自分が学生の頃は、卒業式を迎えたら自然と大人になるのだと錯覚していた。けれど現実は成人を迎えて五つの歳を重ねても、大人になったという実感はない。
子どもと大人の境目はどこだろう。ずっとその答えはわからなかった。だけど、近頃になってようやく自分なりの答えを見つけることができた。
自分の行動に責任を持つこと。それができるかできないか、それが正しく境界線なのではないか。

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