6人が本棚に入れています
本棚に追加
この世界の住民は、二つに分けられる。
一つは、羊。
柔らかな髪と優しい目を持つ、温厚で優しい平和主義者。
一つは、狼。
まっすぐな髪と鋭い目を持つ、貪欲で野生的な荒くれ者。
かつて、羊と狼は同じくらいの比率で存在していた。
しかし羊たちは、狼を嫌った。武器を持ち、やがて狼の首に金をかけた。
『優しい羊を凶暴な狼から守るのだ』と、そう唱えて。
それを何度も繰り返し────いつの日か、狼は森の奥に隠れて暮らすばかりになった。
日の下を歩くのは、羊だけとなったのである。
やがて羊たちは、狼の存在すらも忘れてしまった。
残ったのは二つだけ。
昔は狼という悪役がいて、羊たちはそれをこらしめたのだ、という武勇伝。
それから、万一生き残りに出会った時は即座に殺すのだ、という注意喚起。
それだけを残して、狼という存在は忘却の彼方に押しやられたのである。
これは、そんな世界で紡がれた物語。

最初のコメントを投稿しよう!