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建国祭へ向けて各国の代表が続々と帝都に入る中、サリオンとアルウェンも最後の準備に大忙しだった。
夕食を一緒にとれない日も多々あったが、それでも夜は寝室でお互いの状況を報告するなどして会話を欠かさなかった。
そして、皇太子妃として式典準備の采配をするアルウェンについて、サリオンの耳にもちらほらと噂が聞こえてくるようになった。
「妃殿下の評判、いいみたいですね」
ルイスの問い掛けに、サリオンは無表情でひと言『ああ』とだけ返した。
しかしルイスは見逃さない。
無表情と見せかけて、僅かにサリオンの口の端が上がったことを。
(なんだかんだいってベタ惚れなんだよな)
結婚が決まった時は眉一つ動かさなかったのに、アルウェンを迎えてからというもの、色んな表情を見せるようになった主に、ルイスは少なからず感動を覚えていた。
アルウェンと事務方のつなぎ役となったルイスの元にも、アルウェンに対する良い反応が届いていた。
取り分け多かったのが、アルウェンの柔和な態度についてだ。
偉ぶらず、官吏たちの話をよく聞き、時には指導も仰ぐその謙虚さが彼らに響いたようだ。
当然サリオンの評価も上がるし、ルイスはアルウェンが色々やってくれるから仕事が減って楽だし、いいことずくめだった。
「妃殿下が有能でいらっしゃるのは喜ばしいことですが、こうなると一層サウラ妃の無能さが際立ちます。あちらも心中穏やかではないでしょうね」
「……式典に出席するのは例年通りサウラ妃だけか?」
「ええ。それとサウラ妃の故国からは王太子──サウラ妃の甥が出席されるそうです」
「アスランは」
「アスラン殿下ですか?これまで一度も出席されたことがありませんから、今回もおそらくそうではないかと。式典は長丁場です。体力が持たないでしょう」
サリオンの口からアスランに関する話が出るのは珍しい。
これまでサリオンが注視してきたのはサウラ妃だけで、義弟に関してはさほど警戒してこなかった。
それもそのはず。
あの身体では政務はおろか、人前に出ることすら難しい。
サウラ妃もアスランを皇位に就けたくて必死だが、息子に為政者としての働きは望んでいないだろう。
アスランの命を縮めたくはないはずだ。
だから、最終的には息子を傀儡とした政権を築こうと画策しているのは明白だ。
アスランの身体も、本人がやる気になればなんとかなるのかもしれない。
医者によれば、長い年月をかけて身体を鍛え、虚弱体質を克服した例は少なくないという。
けれど息子を溺愛するサウラ妃は、アスランを導くどころか奥にしまい込んで甘やかすだけ。
サリオンの母である亡き皇后とは大違いだ。
「シャトレ侯爵家はどうだ」
「仰せの通り、出席者についてはシャトレ侯爵の意思に任せております」
今度問題を起こしたらあちらとて後がない。
まさかとは思うが、噂の馬鹿者を連れてくるはずがない……と思いたい。
「とりあえず、シャトレ侯爵家については監視役を側に置いておきます。なにかあればすぐ対応させますので」
「ああ」
「殿下も妃殿下と仲のいいところをたくさんアピールしちゃってくださいね。帝国は安泰だと見せつけなければ」
これまでサウラ妃が流したサリオンに関するデマを払拭するにもいい機会だ。
(まあ、余計な悩みも増えそうだけど)
世間では恐ろしいと噂されているサリオンが、実は超絶美男子で妃を大切にする男だなんて知れれば、第二妃もしくは愛妾志願の女性が山のように押しかけるだろうから。
(早く子どもができればいいんだが)
世継ぎの君が早々に誕生すれば、余計な心配ごとも少しは減るだろう。
けれど、それはどうやら問題なさそうだ。
女官たちの話では、サリオンは結婚以来夜は一度もアルウェンを手放さないというではないか。
遠からず皇太子夫妻の仲は知れ渡ることになる。
貴族たちは新たな派閥への参画を目論み、表向きはご機嫌伺いと称し、アルウェンの元へ詰めかけるだろう。
それはもちろん、色々な手土産とともに。
「しばらくは俺のことよりアルウェンの補佐に力を入れてくれ」
(おやおや)
長年使える最側近をあっさり譲るあたり。
よほどアルウェンのことが心配なのだ。
「ええ、ええ。しっかりとお助けして参ります。ですがお優しい妃殿下の元が居心地良くなって、帰ってきたくなくなるかもしれませんよ」
「駄目だ。それとおまえ、補佐する時は少し離れとけよ」
「それじゃ周囲に会話が筒抜けじゃありませんか」
呆れ顔のルイスにサリオンは『うるさい』とだけ返した。
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