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追い縋って
吉祥寺。井の頭線の改札に向かう人混み。もう見慣れた光景だ。
その中に突然、見覚えのあるうしろ姿を見つけた。ひどく懐かしくなって、後を追いかける。
たくさん話したいことがある。
たくさん伝えたいことがある。
それなのに、細いホームにひしめく人に阻まれて、あの人の後ろ姿を見失ってしまった。
通路が広くなったところで立ち止まり、もう一度辺りを見渡す。それから、あの人がここにいるはずなどないと思い直した。
そう、もう十年以上前に数日だけ一緒に過ごしたあの人は、閉ざされた箱庭の中で暮らしていた。今でもそうしているはずだ。
でも、また会えたと思った。
あの人との思い出に縋るように、ポケットに入れた青い文庫本を握りしめた。
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