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薄っぺらい布団を頭の先まで被り、片足を伸ばした状態で軽く背中を丸める。
密閉された空間に自分の荒い息が篭った。それにすら興奮を覚えつつ、スラックスの中に手を差し込み、期待で芯を持ち始めている性器を握る。ようやくもたらされた直接的な刺激に俺は目を閉じた。
「っ……あ、ああ……」
根本からゆっくり搾るように扱き、粘ついた液が出てくる先端を親指と人差し指で弄る。耐えきれず吐息に混じって声が漏れた。
下肢に伸ばしていない手は胸元にある。
あいつの指と、声と、唇を思い出しながら──そう、こんな風に。
爪を立てて乳首を潰され、「ここがいいんですか」と耳に吹き込まれ、形の良い唇にそこを吸い上げられる……。思い出しながら胸の尖りを虐めているだけで、腰に溜まった熱が爆発しそうになった。
中心をさらに強く握り、速く動かして欲を吐き出そうとした瞬間。
「っ、え?」
バサッという音と共に、目の前の暗闇がいきなり取り払われた。ぼやける視界の中で、高橋が口の端を吊り上げて立っている。
「な、なん……で」
ついさっき電話で会社に呼び出されて、とっくに帰ったんじゃなかったのか?システムトラブルがどうのこうのと話していたのが聞こえたし、確かに部屋を出て行ったのに。
だから、電話が鳴るまで高橋に散々弄ばれて中途半端に熱が溜まった可哀想な体を、自分で慰めようとしていたのだ。途中で放置されたと思ったから。
服の中に突っ込んだままの両手を無理やり引き出され、片手で頭上に縫い留められた。二人分の体重がかけられたベッドが、ぎいと痛い音を立てる。
「なにしてたんですか」
「ち……ちがう……、……これは」
「違う?こんなに勃たさせてるくせに」
下着の上から、猛ったそこを握られる。力はかなり強く、痛いほどだった。思いきり暴れたが拘束は解いてもらえない。
「い、いた……い、やめろ」
「痛いって言いながら、萎えてないけど。あれ?先輩は痛いのが好きだったの」
勝手に解釈されて、布越しにキツく擦られる。さっき射精できず焦らされた体は、それはもう素直に反応した。
恥ずかしいことにすぐに悟られ、「腰が揺れてますよ」と低い声が耳元に落とされる。
「ん、ん、ぁ……っあ……う」
もっと。直で触って、擦って、括れているところとか、先っぽも虐めてほしい。貪欲な感情に戸惑いはなかった。いや、というより、そんなことを気にする余裕もなくなっている。
「た、かはし」
「聞こえますか?ここを揉むと、ぐちゃって厭らしい音がする」
うるさい。俺を煽情する言葉なんか聞きたくない。そう思ったけど、確かにこいつの手で触られるだけで、耳を塞ぎたくなる音が聞こえてくる。
「も、う……たのむ、から」
「頼むって?なにを」
そう言って再度股間を手のひらで強く擦り上げた男が楽しそうに笑った。
「こんな刺激で足りますか。手で触られるだけで」
直で、こいつの大きくて骨ばった指で、触られる。唾を嚥下した。だけどこの男は、それだけで足りるのかと問う。
手じゃなかったら、なにがあるって言うんだ?
まともに働かない頭で考えていると、近づいてきた唇に耳たぶを挟まれる。そうか、そっちがあったか。
「どうしてほしいか言ってください」
耳の内側、皮膚の薄い部分を、尖った舌で舐められる。ぐらり、と眩暈がした。これはやばい。なんとなく分かる。目の前の男のことしか考えられない。
下着の色が変わるほど先走りで濡れてしまったところを、その唇で触れてほしい。お前の唾液で、もっと濡らしてほしい。
でも、なんて言ったらいい?どういう風に伝えたらいいんだろう。
「先輩、言ってよ。俺にどんなことをされたいのか」
吹き込まれた吐息が脳みそにまで到達したのかと思うほど、大げさに肩が震えた。
やっぱりこいつの声は、すごく良い。低いのに張りがあって、凛としていて──その声で囁かれると、自分のどうだっていい矜持なんか意味を成さなくなる。
「く……口で、して。そこ、舐めてほしい……頼む」
ようやく絞り出した声で伝えたけど、自分が思っているより、ずっとたどたどしいものだった。それでこいつが満足したのかは分からない。
唇を歪めて嗤った男が、ずっと動きを封じていた俺の両手を解放した。上にあげていたせいで肘から下が少し痙攣しているように感じる。
「自分でパンツを下ろしてください。それから、足を広げて見せて」
高橋が無表情のまま淡々と言い放った。
思わず歯を食いしばる。が、要望を叶えてもらうにはそうする他ない。息を短く吐き出して覚悟を決めたあと、下着に手をかけて降ろす。少し冷えた空気に晒された性器は、未だに熱が引かず硬くなったままだった。
太腿を震える手で押さえて足を開いて見せる。それでも高橋は未だ表情を変えず、眉一つ動かさなかった。
悔しい。今までやらしい行為は何度かしてきたけど、こいつが俺をちゃんと抱いたことはないし、欲をぶつけられたこともない。
男には本気になったことがないんですよ──と、前に高橋はそう言った。ということは、男とは遊びで性行為をしているのだろう。
だからなのか、俺がこうやって惜しげもなく足を広げて恥部を晒しても、厭らしい言葉で強請っても、動揺のひとつすらしてくれない。
結局、俺は遊び相手にもなれず、ただ揶揄う程度の存在ということだ。
考えていて目の奥がじりじりと熱くなった。情けない。こんなに惨めな気分なのに、下半身の欲はどうして治まってくれないのだろうか。
「は、やく。おねがい」
高橋の手を引いて、屹立に導く。何度も「なんでもいいからお願い」と俺は繰り返した。こいつがそういう気になってくれないのは、仕方ない。もういっそ素直に懇願した方が楽だと思えた。
それに驚いたのか、眉を僅かに上げたあと、すぐ唇がそこに押し付けられる。
「ぅ……、あ……あ」
見せるように出した長くて赤い舌が、根元に絡みつく。そのまま、陰嚢を一通り舐められて吸われる。
先端が震えてとめどなく溢れ出てくる透明な液体を、全体に塗り広げるように上下されて、自分の肩が震えあがるのが分かった。まるで、今にも溶けそうな棒アイスを舐めているかのような動きだった。
淫靡な光景。もう駄目だと痛感させられる。こんなにもこの男に堕ちてしまって、浅ましい自分が嫌になる。もっと、痛いこととか、苦しいことをしてくれたら……きっと嫌いになれたのに。
「気持ちいいですか?こうして、俺の口に、奉仕されて」
すぐに答える気にはなれなかった。押し黙っていると、獰猛に反ったそれを大胆に飲み込んだ唇に強く吸われ、喉の奥でごつごつとぶつけられる。
「あ、あぁ……っ! い、いい……から」
堪らず、力の入っていない声が涎と共に滴り落ちた。
もう、屹立どころか双臀までぐっしょり濡れてしまっている。好きな相手にフェラされて我慢していられるほど、堪え性はない。
腰を揺らして高橋の上顎に勢いよく擦りつけた。窄めている唇から、ぐ、と呻きにも似た声が聞こえなかったわけではない。──ちょっとでもこいつを、動揺させることができたなら。
「もう……、だ、めだ」
離されるかと思ったけど、そうではなかった。もう出せとばかりに先端を吸い上げられて、足の指が丸く縮こまる。途端、じん……と腰が痙攣して震えた。
出した瞬間も口の中に包まれていて、温かくて、恐ろしいほど気持ちよかった。精液を平然と飲み込んだ男が顔を上げ、再び口の端をあげる。つくづくニヒルな笑みが似合うなあと、頭の隅で思う。
「出しすぎ」
口の端についた涎を舐めとられ、そのまま口を塞がれる。自分のものを舐めた後だとか、そんなのも、こいつの唇ならいいかと思う。だってキスしてくれるのだから。
「っん、んん……は……」
「もう一回シャワー浴びますか」
すぐに揶揄されたのだと分かって、耳が熱くなる。こんなに汚して、淫らではしたないとでも思われただろか。
俺の頭を荒く撫でた男がベッドから降りようとするのを見て、思わず服を掴んで引き留めてしまった。
「あ……っ」
まずい。なにをやっているんだ、俺は。一瞬にして額に嫌な汗が浮かぶ。手は放したけど、代わりに訝しげな顔で見られてしまった。
「まだ足りないんですか?」
冗談とも本気ともつかない声色だった。ここで頷いたら、俺を求めてくれるのだろうか。だけど、もしそうじゃなかったら?──怖くて、できない。
「……おまえは、しなくていいのか」
声が細かく震えてしまった。まっすぐ目を見て問う勇気がなくて、俯いたまま尋ねた。
返事はない。今この男は、高橋は、一体どんな顔をしているんだろう。はやく。嫌なら嫌でいいから、はやく答えてほしい。
「抱かせてくれるって言うなら、しますけど」
予想外の言葉に、反射的に顔を上げた。驚いた。まさか拒否されないなんて思ってもなかったからだ。なぜか高橋は苦笑して、俺の頭をもう一度撫でた。
「そんな顔しないでください。冗談ですよ……」
「冗談だと?」
するって言ったのに。たった一言で翻してしまうなんて、卑怯だ。期待した俺が馬鹿みたいじゃないか。
「でも……そうだな。ちょっと太腿、貸してください」
背中を押され、うつ伏せにさせられる。背中にまわった高橋に腰を抱かれて、いつのまにか俺は四つん這いの体勢になっていた。
「な、なに?」
太腿を貸せ。そう言われたけど、意味は理解できない。訳が分からず困惑していると、太腿の外側に手を当てられ、「もっときつく閉じてください」と囁かれる。背後でベルトを解く音がしたかと思えば、双丘と太腿に出来た隙間に、熱いなにかが入ってきた。
「……ぁ……っ!」
声が上擦った。同時に、高橋の屹立を太腿で挟んでいることを知ってパニックに陥る。自分が経験するとは思っても見なかったが、所謂これが素股というやつだろうか。
なにより恥ずかしいのは、この体位ではなく、俺で反応してくれたことが嬉しいと思ってしまった自分だ。
「痛くしないから……っ、そのまま、大人しくしてください」
もったいない。せっかく勃起しているのなら、そのまま挿れてくれたらいいのに。一瞬そう思ったけど、ただ突っ込むわけにはいかない。事前に洗ったり、切れないようによく解したりしなければいけない。つまり、面倒だから高橋は俺を抱かないのだ。
「そんなんで、気持ちいいのかよ」
「まあ多少は」
いきなり腰を揺さぶられて息を呑む。会陰から陰嚢、裏筋にかけて、硬く尖ったそれがぴったり合わさるように当たっている。すぐに自身の屹立も硬さを取り戻し始めてしまった。
「た、たかはし……お、れ……またっ」
「っ……すみません、また勃たせちゃって。お詫びに気持ちよくしてあげますから」
お詫びって、なんだよそれ。言い返そうと開きかけた口の中に高橋の長い指が差し込まれた。
背後にいるのによく届くな、さすが高身長でスタイルが良いだけある……とぼんやり考える。その間にも、厭らしい指が蠢き、ごくわずかに伸びた爪の先が舌の味蕾に引っ掛って俺は眉を顰めた。
「ん、んんっ……く、っ。ふ……」
「俺の指を吸って、舐めてください」
「ゃ……、だ、……ん」
拒否するように舌先で異物を押し返すと、強引にそれが奥まで進んできて蠕動して、堪えきれずに涎が零れ落ちてしまった。指が口に入っているというだけなのに、ぞくぞくと震えが止まらない。
一本だった指がいつの間にか二本に増えていて、それも第二関節が歯に当たるほど奥に入れられている。俺は舌を伸ばして指に絡めた。これ以上突っ込まれないように、懸命に奉仕することを決める。
「偉いですね。歯を立てないように、そのまま舐めて、赤ん坊みたいに吸ってみて」
偉そうに指示をするなと言ってやりたい。けど、体はこの男に従順なようで、素直に言葉に従って動く。
少し骨ばった関節とつるりとした爪の表面を舌で感じ取る。ふと、さっきまで俺の熱を咥えていた高橋の顔を思い出す。
この行為自体が口淫に似ている。そんな気がした。勝手に抜き差しされ、角度を変えられ、それに必死にしゃぶりついているのだから。
尤も、たった今ぶつけられている竿はこんな指どころの太さではないけれど。そう考えて頬が熱くなった。
「ぅ、ん……ん、ふ……っ」
熱くなったのは頬だけではなかった。徐々に角度を変えていく屹立の先端からまた先走りが溢れ出て、腰がじんと熱を持つ。
「やらしいな……っ、指を舐めて感じてるんですか?それとも太腿が感じる?」
「ん、う、るさい……だれの、せいだと」
呆れとも受け取れる言い方だったと思う。猛烈な羞恥心に襲われて目を閉じると、指を引き抜かれた。
間を開けず、先輩、と棘のない声で呼ばれて驚く。剥き出しになっている双丘を湿った指で強く揉みしだかれて、思わず声が出てしまった。
「まったく……そんな反応されると、このまま犯してやりたくなりますね」
さきほどよりかなり硬くなった竿が擦りつけられる。お互いの体液が混じり合って、ねちゃ、となんとも卑猥な音が聞こえた。
(なに、今、なんて言われた?犯してやりたい……と言われたのか?)
考えたいのに、体が熱で浮かされて、考えられない。そうしているうちに今までとは比べものにならない速さで腰を打ち付けられて、俺は悲鳴に似た声を出した。
「ん、ん、んんっ、ぅ……ああっ、あ」
高橋のそり返った竿は俺のものよりも硬さも太さも立派だった。腹のほうに頭を下げると激しい動きが見えて、抜き差しをするたびに荒い息づかいも聞こえてくる。
腰を掴む指に力がこもり、背中の窪んだところを舌で舐められる。歯を立てられて名前を呼ばれた瞬間には、思わずもういっそ抱いてくれないかと懇願したくなるほどだった。
「あ、ぁっ……ふ……く、ん、んっ……も、う」
「あと少し……耐えてください」
その言葉をきっかけに、俺の下肢に手が伸びてきた。充血して体液でぬるぬるに熟された頭を指の腹でゆっくりと嬲られて腰が震える。
高橋も、もうすぐ限界だということはなんとなくわかっていた。直接擦りつけられているのだから。
「あ、ぁ、たかはし……っ」
「そん、な声で、呼ばないでよ」
ひどい。名前くらい呼んだっていいだろう。
熱がどんどん迫りあがってきて、性器が震える。筒状に握りこまれた高橋の指の間から、白く粘ついたものが溢れ出てきた。はあ、はあと犬のように息が上がったまま情景を見ていると、呻き声と共に飛沫が顔の近くまで飛んできた。

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