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天気予報が当てにならないのは百も承知だった。それでもつい信じてしまうのは、生まれつきの人の良さからか。それともただ単に騙されやすい性質なのか。どちらにしても、矢崎は今、突然の夕立から逃れるべく、何処か適当な軒下を探さねばならなかった。
古い城下町である。道幅は自動車がすれ違えぬほどに狭く、辺りには瓦屋根の古民家が多かった。
矢崎はいちばん近くの瓦屋根の下に潜り込んだ。古い商店のようだが、店を開けているような気配はない。薄い硝子の引戸を覗いて見るが、灯りは消えており、人の姿もなかった。
硝子戸に背を向け、空を見上げた。雨の勢いは増すばかりだった。左腕の時計に視線をやると、夕方四時を回ったところだった。
土砂降りの雨を逃れながら、見知らぬ男が駆けてきた。男は矢崎と同じ軒下に駆け込み、矢崎と同じように薄い硝子の引戸の奥をしげしげと覗き込んだ。それから引戸に背を向けて、空を見上げた。
男は視線を落とし、矢崎を見た。目と目が合って、気まずさを感じたのか、男は軽く頭を下げて黙礼した。
「あっ、ども」
矢崎もつられて頭を下げた。
見知らぬ男は、その風貌から見て、何処かの商社の営業マンであろうと思われた。もしもそうだとしたら、見知らぬ男は矢崎と同業である。
夕立は止む気配がない。矢崎は何度も腕時計の時刻を確かめた。隣に立つ見知らぬ男も同じように腕時計を気にしている。
やがて矢崎は時刻を気にするのをやめた。隣の見知らぬ男も、腕時計を確かめるのをやめた。
雨は止む気配がなく、偶然に隣り合って雨宿りをする男ふたりは相変わらず他人同士のままである。長い沈黙が続いている。
沈黙は苦手だった。だが、昨今の治安を考えれば、見知らぬ輩と安易に言葉を交わすのは憚られた。矢崎は沈黙を続けながら、早く雨が上がることを願った。だが矢崎の願いは空しく、雨足は強まるばかりだった。
「うーむ」
唸り声がつい口をついて出た。
「うーぬ」
見知らぬ男も唸っていた。
「止みそうもないですね」
どちらからともなしに、そういうことを呟いた。双方ともに頷き合い、儀礼的な挨拶を交わし、それが一通り済むとまた沈黙が訪れた。しかし夕立はまったく止む素振りさえ見せず、今いるこの場所から動くことを諦めたのだろう見知らぬ男は、暇をもて余してか、沈黙に耐えかねてか、雨にまつわる不思議な話を訥々と語り始めたのだった。
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