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本棚に追加彼の気持ちを理解できる力を下さい
ここに迷える子羊が一人。
あーあ…。
スマホの画面を見てため息をついた。彼からの返事は「了解」の一言のみ。ずっと過去に遡ってみると、もう少し長いメッセージが残っている。その時も素っ気ない人だなと思っていたけれど、まさか更に素っ気なくなるとは思っていなかった。必要なことだけしか並んでいないメッセージにもう一度ため息。
もう終わりなのかなぁ…。
明日暇?
うん。
会う?
うん。
どこに行く?
どこでも良い。
じゃあ、映画? 見たいのあるんだけど。
了解。
以上。何の映画かも聞いてこない。集合時間も場所も聞いてこない。本当に会う気があるんだろうか? 仕方がないのでこっちからもう一度送ってみる。
何時集合にする?
昼にいつものところ。
ああ。そういうこと。と、少し納得した。この人は集合場所を考える手間すらかけられないらしい。いつも自分の最寄り駅のモニュメントの前で待ち合わせしてた。今回も同じ。もうデートというか、何かの作業なんじゃないかと思う。分かった。と、負けず劣らず素っ気ない返事をしてスマホを寝っ転がっているベッドに置いた。
辛くなってきたな…。
天井を見上げてそう思う。今まで言葉にはしなかったその気持ちをはっきり認識して、もっと辛くなってしまった。何でこんなことになっちゃったんだろう。
元々自分の片思いから始まった交際だ。相手はそんなに好意がある訳では無かったのかもしれない。だとしたら今までよく付き合ってくれたものだ。高校を卒業する時に、もう会えなくなってしまうからと勇気を振り絞ってからもうすぐ一年。…一年というのは気が早いか。えっと、九ヶ月くらい。あれ? もうそんなに月日が経っていたのか。指折り数えてそんなことを思う。長かったような、短かったような。
その期間にあたし達は何をしていたんだろう。特にこれと言って甘い思い出は見つからない。あまりに起伏のない時間にこれが倦怠期かと思った時もあるけれど、そもそもラブラブだった時期もなく、思い出してみれば相手は最初からこんな感じだった気がする。だとしたら自分の緊張が多少なくなっただけで、彼はずっと一緒だったのかも知れない。
あたしの変化だけで終わりを感じてしまった事が事実なら、きっと最初からあたしの事なんて好きじゃなかったんだろうな…。
そう気が付いて泣きそうになる。それなのに付き合ってくれたことを感謝すべきか恨むべきか。
別れた方が良いのかな…。
会っていても碌に目は合わず、ため息をつかれたり怒られたり。そんな記憶しか思い出せない。そんな彼に近寄りがたくなってしまっている自分もいけないのかもしれないけど、どうしたらいいのか分からない。彼との今後も、明日のデートでどんな態度をとればいいのかも。
そうだ。もしかしたら彼は受け身の人間で、あたしから別れ話をするのを待っているのかもしれない。だから余計にあんな態度とるのかも。確かにデートの行き先だってあたしが決めるし、連絡だってこっちからだし、そもそも付き合いのきっかけの告白だってそうだった。だとしたら何で付き合ったの? 付き合ってからやっぱり違うって思ったの?
だったら言ってくれて構わないのにな…。
そんなことを強がって思うのに、今度ははっきり涙が零れた。だって無理だもん。あたしはまだ彼が好きだから、自分からお別れなんてできない。でも彼が嫌な思いをしているのなら別れたって構わない。言ってくれればちゃんと受け入れるのに。
せめて彼の気持ちが分かればな…。
それで嫌われていることが分かったら、きっと自分は身を引ける。だから神様。
彼の気持ちを理解できる力を下さい。ほら、よく漫画とか小説で他人の心の声が聞こえたりとか、心情が見えたりとかしてるじゃないですか。予言の書でも魔法の鏡でも何でも良いんです。あたしが一歩足を踏み出せる力をどうか。
そんなことを思いながら眠ってしまった。

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