ズル休み

1/1
前へ
/11ページ
次へ

ズル休み

「行ってきます」  9月1日の朝。  小学校について、夏休みの宿題を先生の机に置いた。  それから私は、教室を飛び出した。  登校する子たちが魚の群れみたいに向かってくる。その中を、私は反対に学校から出て行く。  人が多い。裏門に行けばよかった。紗彩(さあや)ちゃんならそういうことも思いつくのにな、と思った。校門を出たところで同じクラスの子と目が合った。 「どうしたの?」 「ちょっと忘れ物」  どきどきしたけど、その子は隣の子に話しかけられて、私から目をそらした。    私は「忘れ物をしたから帰ってます」という顔をして通学路を通って、家の様子をうかがった。庭からのぞくと中は暗くて、ママはもう仕事に行ったみたい。  家の鍵を開ける。ランドセルを置いて、制服から地味な服に着替える。それから家を出て、向かいの家へと歩く。小ぢんまりとした、古い家の駐車場に車がないのを見て、私は玄関の前に立った。すりガラスの引き戸の向こうはしん、としている。  呼び鈴を押すのにしばらくかかった。自分のやってることはまちがってるんだろうなと思う。ここまでする必要あるのかなと思う。今からだって遅くない、家に戻ってランドセルをとって教室に戻れば、全部なかったことになる。  だけど、だけど。  私は友達をほうっておけない。  ピンポーン、と鳴ると同時に、ずきりと胸が痛んだ。  ああ、やってしまった。これで皆勤賞も台無しだ。  ドタバタと音がして、引き戸が開いた。 「(しずく)ちゃん! 来てくれたんだ」  紗彩ちゃんのやせた顔にぱぁっ、と光がともったみたいだった。だけど久しぶりに笑ったのか、ぎこちない笑顔だ。  私は「うん!」と明るく言ったけど、裏にはインターホンを押す前のいろんな思いがまだぐるぐるしていた。  紗彩ちゃんが支度をして、引き戸のドアを閉める。鍵をかける背中は相変わらず猫背だった。  紗彩ちゃんは、私の友達で、教室は二つ隣の6年1組。4月の終わりから休み始めて、それからずっと学校に来ていない、不登校の子だ。  これから二人で、遊ぶ約束をしていた。

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>