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ズル休み
「行ってきます」
9月1日の朝。
小学校について、夏休みの宿題を先生の机に置いた。
それから私は、教室を飛び出した。
登校する子たちが魚の群れみたいに向かってくる。その中を、私は反対に学校から出て行く。
人が多い。裏門に行けばよかった。紗彩ちゃんならそういうことも思いつくのにな、と思った。校門を出たところで同じクラスの子と目が合った。
「どうしたの?」
「ちょっと忘れ物」
どきどきしたけど、その子は隣の子に話しかけられて、私から目をそらした。
私は「忘れ物をしたから帰ってます」という顔をして通学路を通って、家の様子をうかがった。庭からのぞくと中は暗くて、ママはもう仕事に行ったみたい。
家の鍵を開ける。ランドセルを置いて、制服から地味な服に着替える。それから家を出て、向かいの家へと歩く。小ぢんまりとした、古い家の駐車場に車がないのを見て、私は玄関の前に立った。すりガラスの引き戸の向こうはしん、としている。
呼び鈴を押すのにしばらくかかった。自分のやってることはまちがってるんだろうなと思う。ここまでする必要あるのかなと思う。今からだって遅くない、家に戻ってランドセルをとって教室に戻れば、全部なかったことになる。
だけど、だけど。
私は友達をほうっておけない。
ピンポーン、と鳴ると同時に、ずきりと胸が痛んだ。
ああ、やってしまった。これで皆勤賞も台無しだ。
ドタバタと音がして、引き戸が開いた。
「雫ちゃん! 来てくれたんだ」
紗彩ちゃんのやせた顔にぱぁっ、と光がともったみたいだった。だけど久しぶりに笑ったのか、ぎこちない笑顔だ。
私は「うん!」と明るく言ったけど、裏にはインターホンを押す前のいろんな思いがまだぐるぐるしていた。
紗彩ちゃんが支度をして、引き戸のドアを閉める。鍵をかける背中は相変わらず猫背だった。
紗彩ちゃんは、私の友達で、教室は二つ隣の6年1組。4月の終わりから休み始めて、それからずっと学校に来ていない、不登校の子だ。
これから二人で、遊ぶ約束をしていた。

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