21人が本棚に入れています
本棚に追加
帰り道、私達は無言だった。なにか言わなきゃと思うのに言葉が出てこなくて、何度もつばを飲み込んで。そうこうするうちに、あっという間にバスを降りてしまった。
明日になれば、私は学校に行く。
紗彩ちゃんは、家にこもったまま。
どうにかしたいのに、出口が見えない。
家が見えてきた時、話しかけてきたのは紗彩ちゃんのほうだった。
「雫ちゃん、今日はありがとうね。
私、雫ちゃんとずっと遊べたらなって思ってたの。
最高の思い出になった」
にっこりした紗彩ちゃんは、どこか影があって、こわかった。
「なんでそんなこと言うの。
これで会うのが最後みたいじゃない」
心臓が、ばくばく言ってる気がした。
「うん、雫ちゃんを巻き込むのは終わりにする。LINEも送らない」
「なんで」
「だって結局、雫ちゃんいい子だから。私に合わせてくれるから、うれしかったけどすごく悪い気がして……雫ちゃんは学校に行ける子、だから」
紗彩ちゃんは、言葉で私を突き飛ばした。
私は、涙がこみあげてくるのを感じて、ぎゅっと目を閉じた。
なんでこんなに力がないんだろう。どうして紗彩ちゃんと私が、こんな思いをしなきゃいけないんだろう。悩んで、苦しんで、隠そうとして気をつかって。何も考えずに遊んでいたあの頃には戻れない。これが永遠の別れになるみたいで、そんなのって、そんなのって──。
「いやだ!」
私は大声で叫んでいた。
「雫ちゃん……」
「いやだよ!
私、なにもできないけど、紗彩ちゃんがそんな言い方するのやだよ!
これで終わりみたいに言わないでよ! 毎日ちょっとだけでもLINEでやりとりしようよ、し続けようよ!
紗彩ちゃん、すごく苦しんでるのに、見捨てるようなことできない!
巻き込まれる方がずうっといいよ!」
「でも……どうしようもないじゃない!」
紗彩ちゃんも負けじと大きな声を出した。
「私の身長は変わらないし、お母さんにも迷惑かけてるのわかってるもの! でも、どうしたらいいかわからないの。
できることなら小学校だって行きたいけど、玄関から出ようとしたら足が重くなるの、立てないしお腹痛くなって……。
雫ちゃんができてることが私できないの、できる未来も見えなくて毎日苦しいの!
だからこれで終わりにしようって言ってるのに……なんで、なんでそんな優しいこと言ってくれるの」
紗彩ちゃんの目から、涙がこぼれた。今はもう二人とも泣いていた。
夏の日の午後、こんなところで泣いてたら暑いのに、汗もかいてるのに、ここで紗彩ちゃんを家に帰しちゃいけないと、それだけは強く感じていた。
でも、この後、どうしよう。
どうすればいいの──。
「雫、紗彩ちゃん」
後ろから、聞き覚えのある声がした。
振り返ると……。
「ママ?」
ママがいた。全体的に黒っぽい服装をしている。サングラスを手にして、いつも結んでる髪をおろしているけど、間違いなくママだ。え、なんで?
「ああもう、あっつい!
二人ともそんなところ突っ立ってないでうちの中入りなさい」
「え、でも……」
紗彩ちゃんがためらうのを「ほら早く」と押すようにして、私達はうちに入った。
なにがなんだかわからなかった。

最初のコメントを投稿しよう!