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うしろ姿の君へ
貴方と別れたときに貴方が贈ってくれた言葉が今も胸に張りついて剥がれてくれない。
「地球は丸いから、きっと君がぼくを置いていってもそのまままっすぐ前を歩いてくれれば、ぼくは君とは逆方向に進んでいって迎えにいける。地球は丸いから、きっといつか君とまた再会できる。そのときはぼくが君を抱きしめてあげる」
もう何年も前のことなのにまだ私は貴方に会えていない。その言葉を信じていればいつかまた会えるのだろうか。そう思ったとき、私の前に見える地平線のアスファルトの稜線から見慣れたシルエットが浮かび上がってきた。それはみるみるうちに大きくなり、私の数歩先まで来てから止まった。
「やあ。また会えたね」
「いつまで待たせるのよ」
「はは。ごめんごめん。ちょっと寄り道してたら時間がかかっちゃって」
この頭の奥に残るざらついた貴方の声を、わたしの身体はまだ覚えていた。
「約束通り、また会えたでしょ?」
「お迎えが遅いからひとりで帰ろうと思ったのに」
「まあまあそんなつんつんしないで。おかえり」
貴方が広げてくれる大きな胸板に身体を預ける。
「……ただいま」
私たちの恋は地球の2周目を通過した。
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