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本棚に追加バス停
偶然混み合ったバスの中で隣人を見かけた。傍で見ると、思ったよりも華奢じゃ無いし、背も高い。
…降りる場所はきっと同じ。
何食わぬ顔で、ブラウスのボタン上から2つ迄外し、彼に近づく。
「あっ…ごめんなさい」
わざとよろけて彼の視線の下へと潜り込んだ。
「…いえ…大丈夫ですか…?」
そう言いつつ、隣人の視線が胸元へと落ちるのを見逃さなかった。
自虐的なようだが、薄い胸もこんな時は便利だ。
ほんの少しの隙間からでも見えてしまう。
「あの…もしかして…お花屋さんの近くにお住まいの方ですか?」
少し長めに胸に気をとられて居る隙に小声で聞いた。
「え?」
隣人は眼が合うと少し驚き、考え込む様な素振りを見せた。
「お花屋さんの通りで、何度かお見かけした様な気がしたので…。私近くのマンションに住んでいるんです」
「そう…ですか…。」
何とも言えない空気が流れる。
…聞かなければ良かった。
直ぐに後悔した。明かに周りを気にしている様子だったからだ。
それ以上は、何も話せなかった。このまま停留所迄はあと2つもあるというのにと、思っていると、この先は事故か何かで少し混んでいると、運転手の乾いた声で車内アナウンスが入った。
普段なら次の停留所迄5分の筈なのに、倍の時間が掛かった。
逃げ出す様にして、ひとつ手前の停留所で降りた。
「あの…。」
後ろから声を掛けられると、隣人も同じバス停で降りていた。
「僕…あなたに何処かでお会いしましたっけ?」
俯き加減で躊躇い乍らも、隣人は申し訳無さそうに聞いた。
「夜…窓の外の…向かいのビル…です。」
それだけ言って、私は足早にその場を去った。
隣人が、私の背中をじっと見つめているのが分かった。
お互いの存在に気がついてからも、
毎晩、”彼と私の日課“は、続いていた。
私が始めると、彼がやってきて
お互いが、果てるまで…。
そんな日が、1ヶ月程続いた。
そして突然、彼の姿を見なくなった。
正しくは、生活する時間帯が合わなくなった。
♬*.:*¸¸
その日
バス停で待つ人々は、傘をさしていた。
少し混んでいて、私は最後尾に並んだ。
5分ほどするとバスがやってきた。
前の人に続き乗車する。
湿った空気の中を押される
ようにどんどんと中へ進む。
気がつくと、隣人が私のすぐ後ろにいた。
一瞬目があったので、お互いに微笑んだ。
バス停に止まるたびに、隣人と密着し
奥へ奥へと押された。
よろけた私を庇う様に、
そっと手でガードしてくれた。
薄手のシャツから、伝わる彼の体温。
とても温かくて心地が良い。
彼からは、洗い立ての優しい柔軟剤の香りが
していた。呼吸する度に密着度が増して、
私の胸が、彼に押し付けられた。
次に、私が降りるバス停の名前が告げられると
「ここ…ですよね?」
と彼が囁いたのでうなづいた。
私達は、少しづつ動き、隙間を見つけては
降車口へと向かう。
人の流れと、それに抗う力が生まれる中で、
彼は私の腕を引き乍ら降りてくれた。
雨はもう止んでいた。
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
暫く肩を並べて歩いた。
「あの。」「えっ…と。」
同じタイミングだったので、
彼がどうぞどうぞと笑った。
「あの…うちで…お茶飲みませんか?」
「良いんですか?」
彼はちょっと驚いたように聞いた。
「はい。」
マンションのエントランスが見えてきた。
いつもなら、彼はこの少し先の横断歩道で、反対側へと渡る筈だ。
エントランスを入ると彼は、私の後ろからついてきた。
「ちょっと待って下さいね。」
共同の郵便受けを開けて、手紙を取り出した。
誘っておきながら、期待と警戒が入り混じる気持ちを手紙と一緒にバッグの中へと押し込めた。
郵便受けの名前を彼は見ている。
「ひまりです。私…西野ひまりといいます。」
「白戸…翔です。」
お互いに照れ臭くて笑ってしまう。
エレベーターに乗り、8階のボタンを押すと、
ドアがゆっくりと閉まり動き出した。
「いつも…見てました。」
翔が少し緊張した様子で小さく息を吐いた。
振り返ると、翔にそっと近づいた。
「私も…。」
逃げたり驚いた様子も無く、視線が絡み合い、自然にお互いの唇へと落ちていく。
唇を少し開き彼を迎え入れる準備をすると
翔の方から私を迎えた。
優しいキスを終えて、
一度離れた唇を、今度は激しく求めあった。
ーーーチン。
エレベーターがゆっくりと止まり、ドアが開いた。
こっちよ…と翔の手を引いた。
大きくて温かい手。
鍵を開けて、部屋へと招き入れた。
「どうぞ…入って?」
「お邪魔します…。」
「荷物は、そちらに置いて?お茶淹れるわね?」
リビングを指差し乍ら、キッチンへと入ろうとした瞬間に、後ろから抱き竦められた。

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