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「はい、あ~ん」
小さな口を開けて、樹の差し出した小さなスプーンをパクッとする。
そして、小さく口をはむはむさせたあと、にっこり笑うのだ。
「あは~」
ほわほわとした笑顔を向けてくる明里に、樹の口元もゆるゆるになっている。
「おいしい?」
樹の言葉が分かるのか、明里は嬉しそうに首を縦に振った。
「そっか、そうだよな。ママのごはんはおいしいもんな」
小さなイスとテーブルに座った明里に、樹は優しく話しかけている。
娘の明里が生まれて半年ほど。
樹はすっかり良きパパだ。
「ふふ。樹くん、明里にご飯あげるのいつも嬉しそう」
「そりゃそうだろ。オレたちの子だもん、可愛いよ。それに」
樹は少し頬を赤らめながら続けた。
「しおりんが、大変な思いして産んでくれた子だろ」
そう言ったあと樹は、たくさん食べて早く大きくなるんだぞ、と明里に微笑んだ。
汐里は胸の奥がきゅんきゅんするのを感じながら、その様子を見つめている。
まだまだ赤ちゃんではあるが、目元が樹に似ているのが分かる。
やはり遺伝子とはすごいものである。
その時、ふと樹が汐里の方を向いて言った。
「なぁ、もうすぐ結婚記念日だろ?」
「え?うん、そうだね!一年早いんだもん」
汐里の顔がパッと明るくなり、そして樹と目が合った。
「今年はどうやって過ごそっか。明里もいるし、三人で」
「そうだね。今年はとりあえず、平和に過ごしたいかも」
汐里は、そう言いながら少しだけ下を向いた。
その言葉に、樹はハッとしたように苦笑いし、同じように視線を下にやった。
「サプライズとかそういうのより、今年は穏やかに過ごしたいな」
二人は顔を見合わせ、はははと笑い合う。
樹と汐里の脳裏には、昨年の結婚記念日のことが蘇っていた。

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