ハイヒールの魔法

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「キスしていいですか?」  徹平は真面目な顔でそう口にすると、瀬名に顔を近付ける。驚いた瀬名は、慌てて自分の口を両手で覆った。 「い、いきなり⁉︎ な、なんでですか?」 「さっき会ったばかりなのに信じてもらえないかもしれませんが、三木谷さんのことが好きになりました」  嬉しくて涙が出そうになる。こんなこと、初めて言われたのだ。 「わ、私なんか……男と間違われるような人間ですよ」 「関係ありません。カッコよくて可愛いなんて、三木谷さんは俺のタイプど真ん中なんです」  頬が熱くなり、徹平を直視出来ずに目を伏せる。 「……か、可愛いなんて、初めて言われました……」 「初めての可愛いも、言われて照れる三木谷さんも、俺が初めてってことですね。良かったです」 「やめてください。恥ずかしいです」 「もし嫌なら言ってください」  徹平は瀬名の手を取り、口元からそっと離した。  心臓が高鳴り、耳にまで音が響いてくる。喉がカラカラに乾いていくのを感じながら、瀬名は言葉を絞り出した。 「嫌では……ないです……けど……」  二人の視線絡み合い、どちらからともなくキスをする。  呼吸を忘れてしまうくらいの緊張感。体を包み込む満たされたような温かさ。  終電を逃したから見えた景色と、感じた鼓動と、触れ合う熱と熱。  唇が離れると、徹平は瀬名に笑顔を向けた。 「三木谷さん、めちゃくちゃ可愛い」 「樫村さん、直球過ぎますよ……」 「癖なんです。どうせ相手にされないなら、言いたいことを言った方がいいじゃないですか。その方が諦めもつきますし」 「……そのストレートさが羨ましいです」  それは瀬名の本音だった。言いたいことを言えずに我慢することばかりだった瀬名にとっては、はっきり言える徹平が眩しく映る。 「もう一度していい?」 「……うん」 「素直な三木谷さんも、ストレートで可愛いけどな」  素直なことがストレート? ーーそう疑問に思ったところで唇が重なり、瀬名は何も考えられずに目を伏せた。  もしそうならば、彼がそうさせてくれるのだと、心の片隅で思った。  目を細めた瀬名は、徹平の肩越しに朝日が上り始める様子を目にする。こんなに清々しい朝は久しぶりだった。

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