恋情1-1

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恋情1-1

 ――今日も湾の水面は穏やかに凪いでいるな。    奇譚探しの足を止めて港に降りる小路を覗きこんだ流介は、穏やかな海の様子に思わず目を細めた。  湾内の水面が不吉に波立っているかどうかが、そのまま陸の平和を現している――そんな迷信めいた思い込みがなぜか、頭から離れないのだ。  ――この調子では当分、海も陸も何も起こるまい。  流介は穏やかな海を見ながら、小さなため息を漏らした。もちろん、何も起きないに越したことはない。しかし奇譚記事を書くのが仕事とあっては、平和すぎるのもそれはそれで困るのだった。 「……仕方ない、書きとめてある噂話を適当につなげて奇譚に仕立てるとするか……」  流介が二つ目のため息を漏らしかけた、その時だった。沖合の水面に小さな波が立ったかと思うと、そこから汽車の煙突を思わせる筒状の物体が出現するのが見えた。  ――な、なんだあれは。  流介が冲に目を凝らした途端、黒い煙突が消えて名残の泡だけが水面に残るのが見えた。  ――はて、今のは一体なんだったんだろう。  さほど良いとは言えぬ自分の目でさえ、あれが魚や鳥の類でないことはわかる。それとも普段から奇譚のことばかり考えているから、幻を見たのだろうか。  ――これは少し仕事を控えよとの天の計らいかもしれぬ。  流介は丘の方に視線を戻すと、再び取材を兼ねた散歩を始めた。 「ああ、これでめぼしい事件なしが一週間か。よく考えたらこの開化の世に奇譚などそうそうあるわけがない……おやっ?」  例によって天啓頼みの流介が末広町方面に足を向けると、唐突に聞き覚えのある声が背後から聞こえた。 「飛田さん、取材ですか?」 「……小梢さん」  声の主は『荒海用品店』で働く女性、江島小梢(えじまこずえ)だった。 「今日は荒海さんのお店ではないのですか?」 「はい、荒海さんが大十間さんを訪ねる用事があるとのことで、私も久しぶりに舞の稽古をしてきたところです」

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