4 しょっぱい玉子焼き

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「そういえば思い出したけど、入社した時のオリエンテーションの時、夜中までレポート書き続けて、次の日にぶっ倒れたことあったよね。俺たち同期会の語り草になってる」 「あぁ、あの頃は加減がわからなくて……」  入社したばかりだし、早く会社のことや仕事について覚えたくて、必死に話を聞いてはレポートも用紙いっぱいにまとめていた。そして翌日、寝不足で倒れてしまったのだ。 「あはは! でもすごく一生懸命な人なんだなって伝わってきた。だからこそ、適度なところで止める人がいることが大事な気もするね」 「図星過ぎて反論出来ないな。よく羽美にも注意されるから」 「じゃあこれからは西園さんが無理しないように、俺も目を光らせておこうかな」 「えっ、風見くんを煩わせるわけにはいかないよー」  そう言いながらも、嬉しいと思う自分がいる。  なんでかな……風見くんと話してると、素の自分でいられる気がする。強がったり、無理をしたり、我慢したりしないでいられるーー共通点が多いからかもしれないが、彼との会話は本当に楽しいと思えた。  休憩室の中は人がまばらで、二人で座る席もすぐに確保出来た。  裕翔は椅子に座るや否や、すぐに持っていたカバンの中から弁当箱を二つ取り出す。  両手のひらに収まるサイズの二段の弁当箱はお揃いで、男女問わず使えるような淡いグリーンとブルーのものだった。 「はい、こっちが西園さんのお弁当」  裕翔はグリーンの方を茉莉花に差し出す。 「ありがとう。誰かに作ってもらうのが久しぶりだから、なんかすごく嬉しいな。開けていい?」 「もちろん」  蓋を開けると、下段に玉子、そぼろ、絹さやの三色ごはん。上段にはチーズハンバーグと彩り豊かな温野菜が敷き詰められていた。  見た目だけで食欲を誘い、心がうきうきとしてくる。だがそれよりも、これを裕翔が作ったのだと思うと、感心してしまう。 「可愛いお弁当。こんなにたくさん野菜切ったり、二人分作るの大変だったんじゃない?」 「温野菜は時間がある時に作ってあるんだ。仕事から帰ってレンチンで食べられたりするから」 「へぇ、風見くんってマメなんだねぇ。じゃあ、いただきます!」  内蓋に乗せられていた箸を取ると、三色ご飯を口に入れる。ほんのり甘くて、ホッとするような味付けに息を漏れた。 「これ、そぼろも手作り?」 「正解。よくわかったね」 「味付けが優しい感じがして……。風見くんがこんなに上手なんてびっくり」 「そんな風に言ってもらえると嬉しいな。結構男子が料理することを嫌がる人もいるからさ」 「まぁ明らかに自分より上手で本格的過ぎちゃうと妬いちゃうかもしれないね」 「つまり、ほどほどがいいのかな。でも西園さんは、男が作ってもあまり気にしない?」  裕翔に聞かれて、茉莉花はほんの少しの戸惑いを見せる。  今までは作ってあげたいという気持ちが強かった。だけど今は義務的に作っているような気持ちが大きくなり、好きな料理が楽しく出来なくなっていた。

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