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本棚に追加 大学が夏休みになり、僕の生活習慣はすっかり崩れてしまった。兄と映画を観て夜更かししてお昼前までぐっすり。バイトがあるからかろうじて社会との接点はあるものの、ほとんどの時間を兄とべったり過ごしている。
その日はお風呂上がりに兄が冷蔵庫の中を見て、うーんやらむーんやら声を漏らしていた。
「兄さん、どうしたの?」
「んー、ビール冷えてるけど酒っていう気分じゃなくて、でも何か口寂しくて」
「アイスは?」
「それだ!」
というわけで、駅前のコンビニへ買いに行くことにした。夜九時過ぎ。ねっとりとした湿気が僕たちを包む。日中に比べて気温は下がっているけれど、やっぱり鬱陶しい空気だ。それだけに、アイスへの期待感が高まる。
「瞬は何にする?」
「一番好きなのは雪見だいふくだけど……今日はサッパリするやつがいいなぁ」
「俺は断然ガリガリ君」
「僕もそうしようっと」
コンビニに入り、まっすぐにアイスのケースへ。お目当てのガリガリ君はすぐに見つかったので、二本取ろうとしたのだが、兄があっと声をあげた。
「すげーのあるぞ! 俺、これにする!」
「……えっ?」
兄が見せびらかしてきたのは「デミグラスソースアイス」だった。
「ええ……そんな変なのにするの……」
「デミグラスソースってうめぇじゃん。これ絶対うめぇって」
「まあ……止めないけど……」
お会計は兄。袋はなし。兄はデミグラスソースアイスを、僕はガリガリ君を直接手に持ってコンビニを出た。
「なー瞬、せっかくだし公園で食べよう」
「うん。行こうか」
兄のマンションとコンビニのちょうど中間地点に、ベンチしかない小さな公園があり、僕と兄はよくそこに行くのだ。
兄と並んでベンチに座る。街灯の真下なので手元はよく見える。兄のアイスは一見チョコレートに見えるだけに余計不気味だった。
「いただきまーす!」
何のためらいもなくかぶりついた兄は、みるみるうちに満面の笑顔になった。
「うめぇ! マジうめぇよ! 瞬も食ってみろ!」
「うっ……」
兄の味覚は信用していない。兄の「うめぇ」が僕に当てはまらなかったことは何度もある。しかし、興味はあった。デミグラスソースアイス。果たしてそのお味は。
「じゃあ……」
ほんの少しだけ、かじりついてみた。
「うぇっ」
冷凍ハンバーグをそのまま食べたような感覚に陥った。
不味い。
「ぼ、僕は……ガリガリ君で十分かな……」
「そっか。俺今度まとめ買いしよう」
「そんなに気に入ったんだ……」
ガリガリ君でお口直しである。ぬるい夜風が僕たちの髪を揺らし、木々がざわめく。なんてことのない、夏の夜。だからこそ、僕は兄に言いたくなった。
「兄さん。僕、兄さんの弟でよかった」
「ん? どうした急に」
「こうしてね、一緒にアイス食べるの、楽しいの」
「んっ。俺も楽しい。帰ったら何観る?」
「そうだなぁ、今夜はホラーがいいなぁ」
兄との日々がいつまで続くかわからない。だから、僕は小さな幸せを一粒一粒、小瓶に大切に詰めるのだ。

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