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第1話
月1回。
会社員の私と、飲食店勤務の夫の休みが合うのは、たった1日だけ。
もっと一緒にいたいから、それが結婚理由だった。
私は土日休み、夫の雅史はシフト制。
結婚するときに、雅史は私にこう約束してくれた。
雅史「土日休みの仕事に転職する。子どもが生まれた時もその方が都合いいもんな」
サービス業の雅史は、残業も休日出勤も多い。
真奈美「それは嬉しいけど……。でも、雅史、仕事好きじゃない」
雅史「子ども欲しいもん。それに、仕事はどんな形でも続けられる。子どもと過ごせる時間は限られてるし……。俺、真奈美のこと、うんと大事にしたいから」
真奈美「雅史……」
結婚して1年半。まだ何も知らなかった幸せいっぱいだったあの頃が懐かしい。
今日も夜遅く帰ってくる雅史のごはんを、作るのは、早く帰ってこれる私の役目だ。
疲れてるから早くお風呂に入ってしまいたい。
それでも、明日の雅史と自分のために、料理をしていると、大嫌いな義母から3回目の着信が鳴る。
真奈美「……もしもし?」
すでに2回スルーした後。きっと出るまでかかってくる。
義母『真奈美さん?さっきも電話したんだけど』
真奈美「あーすみません。仕事だったので」
義母『またぁ?あなた、いつになったら仕事やめるの?』
真奈美「前にも言いましたけど、仕事やめるつもりはないですから」
早く終わらないかな。どうせ義母の言いたいことはいつも同じ。
淡々と炒め物をして、くどくど流れる義母の言葉を一緒に、お鍋の味噌を溶かす。
義母『そんなこと言ってるから子どもができないのよ』
言われるとわかっているのに、サラダを添える手が止まってしまう。
義母『真奈美さんはもう30なんだから。しっかりしてくれないと困るの。仕事仕事って我儘ばかり言って。あっという間に高齢出産になっちゃうんだからね!』
真奈美「………」
義母『雅史は子どもを欲しがってるんだから。もうすぐ2年になるでしょ。不妊治療も考えなさい!」
真奈美「あの!」
義母『なに…………おかえりなさぁーい!……』
義父が帰ってきたおかげで、一方的に義母の電話は終わった。
真奈美「不妊治療って……」
子どもができないのはそういう問題じゃない。
私たちは、すれ違い生活が続いていてここ数ヶ月、抱き合うことすらできていない。
土日休みの仕事に転職すると言っていた雅史は、いつまでたっても転職しない。
雅史「新しく仕事を任されて」
雅史「来月で2人やめるから」
雅史「責任者になってさ……」
最初は「好きなら続ければいいし、気にしないで」と言っていた。
1人分のごはんにラップをして、食べ終わったころ雅史が帰ってきた。
真奈美「おかえり……!早いね」
雅史「ただいま。今日は早く帰れてさ。あ、おいしそう食べていい?」
真奈美(大丈夫……私たちはまだ大丈夫。時間さえあれば……きっと)
仲良くやっていける。ワンオペだって乗り越えられる。
久しぶりに一緒にテレビをみる雅史に、ドキドキしながら私は聞いた。
真奈美「雅史……子どもって、今でも欲しい?」
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