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野暮も恋慕もカイのうち
傍に眠るあなたの首を絞めてサロメのように笑ってみたい。
短歌なんか読むんだ、意外ですねと未だ敬語で話しかけ、眠そうに目を擦る恋人は少し小馬鹿にしたように笑う。顔を見合わせて、私と母親がほぼ同じ世代と知ってからは帰ろうかどうしようかとモジモジ、そわそわしていたくせに、肌を重ねたら途端、調子に乗っている。
だから男は嫌いだ。
単純で、奢りが強くて、意地汚くて。
声に乗って吐き出されそうになる、強がりと本音を半々にした言葉をぐっと飲み込んで、冷蔵庫に入っているペットボトルの麦茶を持ってこようかとベッドから立ち上がる。
サロメならそこにいるよと地獄にて悪魔指差す深淵のくち
気だるい声で、男が返歌を詠み、私の背中をそっと抱きしめる。体温が高い。
子供みたいだと笑うと、子供ならここに入れないよと言って、頬にくすぐったいキスをしてくる。ヒゲが伸びているらしい。
たまたま料理を頼んだ店で、たまたま意気投合して、情が燃え上がっただけ。だから何も責められることなんかない、むしろ責め立てるのは野暮というもんだ。
そんなていで、私は一夜限りの恋人を何人作っただろうか。通ってくれた相手もいたが、飽きられるのも早い。どこかに新しい恋人ができれば、そちらに心も身体もずぶずぶとハマっていって、こちらには見向きもしなくなる。
「あと5時間で、おしまい」
「また来てもいいですか?僕は」
潤んだ眼差しに胸の中がふわりと温もったけれど、作り笑いと「気が向いたらまた」なんて、落ち着いた受け答えをする。
年齢なんか忘れたし、生きているかどうかも、最近は臨機応変でいいかなんて軽いのりで困ったものだ。
破れさす障子がまことの姿かと言われりゃそうだと頷くばかり
骸とて汗もうつしのぬくもりもかろうじて持つ丑三つ時は
「このまま詠みあうも良いけれど、汗だけは流させて欲しいの。あなたも」
辿々しい指が、ベタつく胸に触れる。掠れた喘ぎとともに、自分の指先がそっと白い骨に戻っていっていることに気づいて、慌てて握り拳を作る。
殴る相手もいないのに。
今になっては。
「朝になる前には出ていって。ここは」
空が白めば、空き家になる。
汚い虫が這い回り、黒いカビに塗れた部屋ばかりの、朽ちた部屋しかない、置き去りにされたモノたちが集まる墓場と化していく。
わかってる。
わかっているから通じ合いたい。
やけに渋い言葉を選ぶと思ったら、なあんだと苦笑する。
お仲間じゃないか。
さんざん抱き合ってからようやく解るなんて、私も鈍くなったもんだ。
眼窩が暗い穴になった男の唇を吸い、もたれ合うように布団に寝転ぶ。
この世は野暮だよ。べらぼうめ。

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