刻まれた落書き

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 ──都内某所の地下。  薄暗い会場の照明が消えて真っ暗になると、その場にいた者たちは一斉に口をつぐんでステージに注目する。そんな様子を見ながら、俺はステージの中央でポーズを取って演目が始まるのを待った。  パッと三箇所からスポットライトが俺を照らすと、指笛が鳴り拍手が起こる。  いつも気分が高揚する瞬間だ。俺の中のもう一人の俺が輝く瞬間、とでも言ったらいいのか。  俺は別に芸能人でもなけりゃ、バンドマンでもない。趣味でステージに立っているだけの一般人だ。日中は真面目に働いているから、出演料はノーギャラ。なんで収入にもならないことをしているのかって? そりゃもちろん非日常を満喫するためってとこ。  観客の視線が俺に絡みついてくる。俺は身体をくねらせながら、その視線に興奮して勃起している変態だ。いや、今ここにいる全員が変態なんだろうけどな。  俺は顔半分を覆う仮面をつけているし、客も覆面やら仮面やらで素顔を隠している。つまり、そういうアンダーグラウンドなイベントというわけだ。安全のため、主催者だけは観客の身元確認をしているってことだけどな。 「ラビ! いいぞ!」  常連なのか観客から囃し立てる声が聞こえてくる。ラビってのはもちろん本名じゃない。佐倉(さくら)敏一(としかず)ってのが本名だけど、敏一をあだ名で「びんいち」と呼ばれていたことがあって、「さくら」のラと「びんいち」のビを組み合わせた俺のステージネームだ。  今日の衣装は露出が激しくて、仮面の他には玉とちんぽを覆うだけの紐パンしか身に着けていない。その紐パンも今や勃起でかなり際どい状態だ。  音楽のラストに合わせて背中を見せて、力を込めれば筋肉が浮かび上がり、客が声を上げる。たまんねぇ。  でも今日のイベントは俺がパフォーマンスするだけじゃない、双方向イベント──方向性は変態だが──だから、ある意味ここからが本番だ。  今日の客には一人一本のマジックが渡されている。そのマジックで演者の身体に落書きをしてもいいっていうイカれた企画。  オーケーする俺も俺だけど、こういう変態チックなことは、現実的になかなかやることもないしと、面白半分で引き受けた。すでにマジックを手にした観客の列ができていて、俺はポーズを取りながら静止している。 「ああ…… いい筋肉だねぇ。何書いてもいいんだよね?」 「もちろん! 今日はそういう企画なんで」  みんな結構ノリノリだ。書く側だって、人間の身体に落書きする機会なんて滅多にないだろうからな。  最初は応援の言葉なんかもあったのに、瞬く間に俺の身体は卑猥な言葉で埋め尽くされていく。乳首を囲むように星を書かれるのは可愛いほうで、「マゾネコ」だとか「ビッチ」だとか、ちんぽの絵なんかで酷い有様だ。書かれている最中はくすぐったすぎて、動かないようにバックダブルバイセップスみたいな格好で力を込めて我慢していた。  全身に落書きされた状態でもう一度くるりと回ると、落書き前の踊りと違って、もっとあからさまなポーズをとる。尻を突き出した四つん這いや、M字開脚のときは歓声がすごかった。それに、観客の視線が「絶対に脳内で犯してるだろ……」って感じだ。それでゾクゾクしてる俺も俺だから、同じ穴の(むじな)なんだけどな。

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