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「……こないだラインくれたじゃん。奥さんはオッサンを許すとか許さないとかじゃなくて、オッサンが奥さんを幸せにしたように、奥さんもオッサンを幸せにしたいと思ったんじゃない? オッサンもさ、そろそろ自分のこと認めてやれば?」
何も言わない古谷を訝しんで顔を上げた時、いきなり古谷が樹生の顔を手の平で覆った。顔面を抑えつけるように掴むので、逃れようと頭を振った。古谷はなかなか手を離さない。
「ちょ……息、できな……」
指と指のあいだから少しだけ見えた。古谷は天を仰いで顔を背けていたが、頬に涙が一筋流れていた。そして絞り出すように震えた声で、言った。
「………あったかい布団で寝れてるといいなぁ……」
「……」
「あの日は寒かったから……あったかいご飯食べて、あったかい服着て、……子どもと楽しく暮らしてるといいな」
古谷は大きく深呼吸をして、樹生から離した手で頬を拭った。樹生に顔を向けた時にはもう涙は出ていなくて、代わりに清々しい満面の笑みを見せた。
「樹生、ありがとう。お前の義足を作ってよかった。義肢装具士やってて、よかった」
樹生の言葉に古谷がこれからのことをどう決心したかは分からない。けれども古谷の晴れ晴れとした顔を見て、樹生は初めて自分が誰かの役に立てたのだと思えた。
足もなくて夢もなくて生きる気力さえ失って、何もできることなんてないと思っていたけれど、自分がしたことで誰かが少しでも救われたのだとしたら、それだけで死ななくてよかったと思えた。生きていた意味はあった。自分にもまだできることはある。それを探しにまた歩こうと思う。
雲が流れて太陽がひときわ輝いて辺りを照らした。眩しい光に目を射られる。明るい陽だまりに包まれて樹生はようやく新しい居場所を見つけた。右足がなくなってから、半年が過ぎていた。
了

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