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半刻ほど進むとコード―ンの美しい並木道が見えて来た。
鈴鳴る街――コードーン。
そう呼ばれる所以がこの並木道にある。
小さな木の実が出来るその樹木は、黄金色の美しい葉を茂らせる。
そして風がそよぐたびにカラカラと実が音を立てるのだ。
一つ二つではなく騒然と立ち並ぶ樹木の木の実が一斉にカラカラと鳴る様は圧巻で、特に冬を超えた今時期は実も多く風が強くて一番良い時期だ。
その並木道に沿うように薬屋や医療関係の本屋、庶民が出入り出来る治療院などが犇めくように立ち並ぶ。
そこが王妃ラチアが作ったと言われる“黄金の道”だ。
「見えて来たよ、アービー。あれがコードーンだ」
「わぁ……凄く綺麗だ」
「あそこが王妃ラチアが作ったと言われる“黄金の道”。
“碧の道”が“オルタナの庭”なら“黄金の道”は“ラチアの泉”と呼ばれている」
「ラチアの泉? どこかに泉があるのか?」
「いんや。薬に困っていた庶民達がラチア様が作った薬に助けられて、まるで神の泉が出来たようだと噂が広がって付いた名前さ」
「やはり王妃様は凄いな……子供の頃から博士号をお持ちだもんな」
「まぁ、頭のいい人ではあるな。中身は割とお転婆だけど」
「お前、王妃様をそんな風に……」
そう言いかけたアイヴィーが何かを見付けて言葉を切った。
「スー、あそこにいるのはウケイ先生じゃないか?」
「うん?」
そう言われてスーランはアイヴィーの視線を追い掛けた。
その視線の先には確かにウケイと、街娘風の女が二人立っている。
「あの女性は先生の知り合いだろうか?」
「あぁ……そうねぇ、よぉく知ってるだろうねぇ……」
そう言ったスーランは前に座っているアービーの肩に顔を埋める。
やられた。連れて来るとは思ってなかった。
「スー? どうしたのだ?」
「いやぁ、そう来たかって思ってぇ……」
「何だ? どう言う意味……」
こっちに気付いたウケイが眩しい顔でニコリと笑った。
まぁ、王妃に鴉を飛ばしてウケイを呼び出させたのは自分だが、呼び出されたからには一日で解放されることは無いだろうと踏んでいた。
何故なら王妃も去年、第一皇子を出産しておりウケイはいわば義父のようなものだ。
生れたばかりの孫がいて、遠くてなかなか会えない二人だからこそ、今回は二日は戻らないと思っていたのに、ウケイは王妃を連れて来てしまった。
コードーンに着いたらウケイから「戻れない」と鴉が飛んで来るであろうと思っていたのに――――。
「早かったですね? スーラン」
「先生をお待たせしてはいけないと思いまして」
「ほぅ。殊勝な心掛けです」
何もかもお見通しと言う顔のウケイに、スーランは苦笑いして見せた。
馬からアイヴィーを下し、ジッと見られる視線に後頭部を掻いた。
傍にいた街娘の一人が「元気そうね」と言う。
「ラーシャも元気そうで何より」
「えぇ、楽しくお過ごしだったようで何よりよ、スーラン」
「ラーシャが一緒だとは思わなかったけど」
「私がスーランに会いたいと言ったのよ。お前、すぐ私を避けるから」
「別に避けては……」
そんな会話を傍で聞いていたアイヴィーが呆然と女二人を観察している。
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