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4月の朝、土砂降りの雨の下、傘を肩のあたりまで下ろして押さえつけながら筒井はブツブツとつぶやいていた。
「まったく、なんでこの季節にこんな暴風雨なのよ。部長も部長だよ、よりによってこんな日に会社に顔出せなんて」
買ったばかりの水色の女性用パンツスーツの裾がアスファルトに当たって跳ね返る雨粒でところどころ濡れていた。
地下鉄の駅に急ごうと足を早めると、まるで見計らったように目の前の横断歩道の信号が赤になった。
筒井は肩掛けバッグがこれ以上濡れないように傘の下に抱え込み、信号が変わるのを待ちながら、恨めしそうにすぐ側の車道に1センチほどの深さで溜まっている水を見つめた。
「ああ、もう! 今日もローファーの靴だから水たまり避けて歩かないと」
ブクブクブクという低い音がかすかに聞こえて来た。筒井は一瞬眉をひそめたが、それほど気に留めずにいた。
目の前の信号が青に変わったので筒井は駆け出そうとした。だが道路の表面に貯まった雨水を避けようとして歩みがのろくなる。
いきなりすぐ近くになるマンホールの縁から水柱が吹き上がり、ドーンという破裂音と共に、マンホールの蓋らしき物が宙に飛び上がった。
水柱が急に太くなり、再度大きな破裂音が鳴り響いた。マンホールの周囲のアスファルトまでが砕けて跳ね上がり、大量の水が横方向にもすさまじい勢いで飛び出した。
水圧で筒井の体は側の電柱に叩きつけられた。周囲で金切り声の様な車の急ブレーキの音が響き渡った。
大雨の水の下水溝への流入が限界を超えて、マンホール内の空気が異常に圧縮され、爆発的に水と共に飛び出したのだった。
電柱にすがり付いて、そのまま地面に崩れ落ちた筒井は、ドカン、ガシャンという衝突音に囲まれながら、気が遠くなっていった。
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