浅縁と祝杯

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 思えば、最初から大した動機もない集まりだった。  大抵の会で誰かが報告をする場になってはいたけれど、特段変わったことなどそう起きるものではない。  ただ、その日は局地的豪雨の影響で電車が止まってしまったり、翌日は台風の予報が出たりと、僕らが集まるためには悪い条件が重なってしまった。  僕は約束をした居酒屋に三十分遅れで到着し、泥まみれのスーツをいつクリーニングに出そうかと考えながら、案内された個室まで歩く。  襖を開けると、笹島が一人、泡の消えたビールを前に座っていた。 「あ……ごめん。電車止まってて」  笹島がいつから店に着いていたかは分からなかったが、先に飲み物を頼まずにいられないほどだったのだろう。  僕はグループLINEで「遅れる」とメッセージを送っていたが、誰が店に着いているのかまで把握をしなかった。みんなも電車が動いていないんだなと安心していたのだ。 「ああ。今日はオレらだけかも」  笹島はそう言いながら、ドリンクメニューを僕に差し出す。  笹島の髪はスタイリング剤で固められたまま特に乱れもなく、スーツが濡れている様子もない。 「笹島って、勤め先がこの近くなんだっけ?」  僕ら以外が店にたどり着けなかったことから、なんとなくそうなのかなと思った。 「いや、1時間かかる」 「そうか。電車止まってなかった?」 「電車が怪しかったから、バスで来た」 「へえ、バスは動いてたんだ。普段使わないから知らなかったな」  ドリンクメニューを眺めながら、よりによって笹島と二人きりかと運命を呪う。メンバーの中で一番話しが合わない相手とこんな風に対峙するのが分かっていたら、わざわざこんな遠くまで足を運んだだろうか。

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