浅縁と祝杯

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  ✳︎✳︎✳︎  森川と僕は、スーツに白いネクタイをして、渋谷駅で待ち合わせた。  集まる機会がなくなったから、こうやって会うのは一年半ぶりだ。 「まさかお前との再会が笹島の結婚式ってのが、なんつーか、意外すぎ」  森川は背が高い。  学生時代よりも垢抜けて、爽やかな好青年といった雰囲気が増していた。  結婚式の二次会で彼女を作ると意気込んでいたが、僕が女だったら森川みたいな男と付き合いたいかもしれないなと思う。  少なくとも、笹島より。 「僕だって、笹島の結婚式に参列することになるなんて思わなかったよ」 「なんで、あの流れからこうなったんだ?」  森川は不思議でたまらないと言いたげな顔で隣を歩いている。  街の喧騒は、どこからか聞こえてくる流行りの音楽や、外国人観光客の歓声や、車のクラクションが混ざっていた。 「まあ、雨降って地固まるってやつ?」  なんとなく、詳細は伏せておこうと思う。  まだまだ都心には暑さが残り、僕はネクタイに締め上げられた首を少し開放して息を吐く。 「笹島の奥さん、見てみたい」 「それ、俺もずっと楽しみにしてたんだよなあ」 「今度、笹島と奥さん呼び出して飲もうよ。それか、お宅訪問」 「うわー笹島んちとか想像つかねえー。でも行ってみてえー」  僕らの黒い革靴は、アスファルトを蹴り上げながら目的地まで進む。  まさか、笹島を祝福する羽目になるとは。  ビール一杯をおごっただけのつもりが、随分と高くついたものだ。  僕はいつになく晴れかやな気持ちで、そんなことを考えていた。  <了>

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