性欲という、世界一不器用な愛に挑んだ者たち

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性欲という、世界一不器用な愛に挑んだ者たち

1. ドイツ人は、笑いながら刺してくる 東京・新宿。午後7時、やきとん三丁目。 市川トオル(45歳・バツイチ・仕事は転々・趣味は廃墟巡り)は、ドイツ人の友人クラウスとジョッキをぶつけ合っていた。 クラウスは開口一番、満面の笑みで言った。 「トオル、君たち日本人は、性に関して狂っている」 あまりに直球すぎて、トオルは枝豆を箸でつまんだままフリーズした。 「な、なにが…?」 クラウスは笑いを堪えながら畳みかける。 「君たちのポルノビデオ、ジャンルが異常に多い! 義母、義姉、義妹…義務教育みたいに義だらけじゃないか!」 隣のサラリーマンがビール吹いた。 「しかも、“女子校生”と“女子高生”って別ジャンル? どう違うんだ、誰か教えてくれ!」 トオルは苦笑いを浮かべつつ、なんとか反論する。 「いや、細分化は悪いことじゃないだろ…?」 クラウスは真顔で頷く。 「確かに。だが君らは、こんなに設定を作るのに、肝心な部分にモザイクをかける。意味がわからない。  なぜ裸を見せずに、義理の関係だけ増やす? なぜ密度世界一の風俗街を持つ国で、肝心な映像は隠す?  君らの性欲は、哲学的に見ても奇形だ」 ——哲学的に奇形。 その言葉が、トオルの胸に深く刺さった。 性欲。人間の三大欲求の中でも、一番暴れ狂うと厄介なやつ。 俺たちは、こいつとどう向き合ってる? 酔いに任せて、トオルは叫んだ。 「俺がエロの常識を変える! 世界のエロの基準を変えてやる!」 クラウスは笑った。 「なら、まずモザイクを外せ」 「それは…法律が…」 「じゃあ法律も変えろ」 …変えられるか、そんなもん。 --- 2. プロジェクト始動 ― 性欲の地図を描く 翌日、トオルは小さなレンタルオフィスを借り、「真のエロティシズム」をテーマにした革命的エロ本の制作を始めた。 集まったのは—— 元エロ漫画家の山下(48歳、締切は守らない) 編集アシスタントのミホ(29歳、恋愛経験少なめ、根が真面目) 近所の八百屋の息子ヒロシ(25歳、デザイナー志望だがセンスは未知数) 会議初日。山下が腕を組んだまま言った。 「まず、男と女の性欲の違いをちゃんと分析しないとダメだ」 ミホが頷く。 「女は、基本的に気持ちがないと抱けません。でも男って——」 ヒロシが口を挟む。 「男は気持ちがなくても抱ける!」 ミホがジロリと睨む。 「…それ、ドヤ顔で言うことじゃないです」 トオルはホワイトボードに書き出した。 男の性欲 視覚刺激に即反応(裸、下着、動き) 気持ちゼロでも抱ける(ただし後で虚無) 刺激を求めて性癖が拡散・エスカレート 女の性欲 感情・信頼・心理的安全性が鍵 ホルモンや周期で波がある 性癖は限定的だが、感情と結びつくと深く固定 ミホはぼそっと呟く。 「こう並べると、女は面倒くさいって思われそう…」 トオルは笑った。 「いや、面倒なのは男だ。無駄に欲や癖が暴れ回るから」 --- 3. 性癖地図と哲学の罠 山下は海外の性癖マップを持ち込んできた。 日本:フェチ細分化(耳かき、眼鏡、匂い…) ドイツ:S/M文化+ラテックス愛 アメリカ:巨乳崇拝+ロールプレイ フランス:官能文学+映像美 ブラジル:野外・開放系 「男は、獲物を追う狩人みたいに新しい刺激を探す。だから文化が爆発的に増える」と山下。 ミホはためらいながら言った。 「でも…女だって、本音ではすごい妄想してる人、いますよ。ただ言わないだけで」 トオルは膝を打った。 「そこだ! 男は外に出しすぎ、女は内に隠しすぎ。  この見えない橋をかけるのが“真のエロ”だ」 山下はニヤリとした。 「つまり哲学だな。“性欲とは、衝動であり、同時に言語だ”」 ヒロシが首をかしげる。 「言語?」 「そうだ。言葉の代わりに体で会話するんだ。だが、言語だからこそ誤解も生まれる」 --- 4. 元AV女優・さつきの告白(リアル完全版) 取材で訪れたのは、元AV女優のさつき(38歳)のアパート。 小柄で穏やかな雰囲気だが、その眼差しは刺すように鋭い。 「現場はね、恋愛じゃない。名前も知らない男優と、本番が始まる」 淡々と続ける。 「喘ぎ声は演技。痛くても、臭くても、笑顔を崩さない。カメラが回ってるから。  観客はリアルだと思ってるけど、あれは全部“売れるように整えた幻”」 一瞬、沈黙。 「でも、本当はね…裸だけじゃなく心も全部さらけ出して、“それでもいい”って言ってくれる人に会いたかったな。でもそんな現場、一度もなかった」 その声には、乾いた砂のような渇きがあった。 トオルは悟る。 ——性欲は、人を物にすることも、人を救うこともできる。 違いは、そこに“心”があるかどうかだ。 --- 5. 制作地獄と哲学的脱線 『共鳴(Resonance)』の企画はこうなった。 ギャグ漫画で偏見を笑い飛ばす 官能写真は露出控えめ、物語連動 男女別視点エッセイ 哲学コラム「性欲とは何か」 だが印刷所に原稿を出すと、担当者が言った。 担当者「これ、抜けないですよ」 トオル「抜けなくていいんです」 担当者「でもエロ本の分類にできません」 トオル「じゃあ哲学書にしてください」 担当者「哲学書に官能写真は載せられません」 クラウドファンディングに切り替えたが、支援者からは 「これエロ本? 自己啓発書?」と混乱の声。 それでも完成した雑誌は、なぜか発売直後から 「泣けた」「パートナーと性癖を話せた」 という感想で溢れた。 --- 6. 変わった世界、変わらない人間 数年後。 一部のポルノ市場は「共鳴型」へシフト。 ただ抜くためじゃない、“心ごと抱く”コンテンツが増えた。 講演で、トオルは言った。 「性欲は、世界一不器用な愛だ。暴れれば人を傷つける。でも、見つめれば、人を抱きしめる力になる」 会場の隅で、さつきが拍手を送っていた。 その瞳は、かつてよりもずっと柔らかかった。 ——だが、クラウスは言った。 「トオル、まだモザイクは外れてないぞ」 トオルは笑った。 「モザイクは、なくならなくてもいい。  本当に外すべきは、俺たちの心のモザイクだ」 拍手の音が、静かに響いていた。

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