「私が言葉足らずだったために、亮二さんを思い悩ませてしまってごめんなさい。今夜のことは、決して口外しませんから……だからどうか、ちゃんとしたお相手と結ばれてください。そして……喜一さんの分も、幸せになって」
嫌になるほど美しい笑みを浮かべて、瑠璃はそう言った。
でも、亮二が欲しいのはそんな言葉ではない。どれだけ身分の良い家の娘と結婚しようが、大金を稼ごうが、瑠璃がいなくては駄目だとわかっていた。瑠璃が近くにいてくれさえすれば、それだけで亮二は幸せだったのだ。――たとえそれが、兄のものであったとしても。
「い……いやだ。頼むから、ここにいてくれよ、瑠璃さん……」
「亮二さん……でも、」
「言ったよな、俺を好きにならなくてもいいって。あんたが望むなら、喜一と重ねてもいいんだ。そんなに似た顔じゃないが、目はそっくりだろ?」
「亮二さん……」
「死ぬまで、喜一の代わりでいいからさ……だから、ここにいてくれ。なあ、頼むよ……」
裸のまま正座する瑠璃に近寄り、縋るようにその体を抱き締める。どこにも行くなと念じているうちに、また今日も喉の奥から乾いた咳が込み上げてきた。
げほげほと咳き込む亮二の背を、瑠璃がゆっくりと撫でる。そういえば昔もこうして、咳に苦しむ亮二に瑠璃が寄り添っていてくれたことを思い出した。そしてそこには、いつだって喜一がいた。
『あっ! 亮二ちゃん、また咳が出るの? 苦しいね、ちょっとそこの木陰で休もうか』
『あー、これは薬を飲まないと止まらなそうだな。瑠璃、亮二を頼む! 亮二、大丈夫だからな! 兄ちゃんがひとっ走りして、すぐに薬を持ってきてやる!』
瑠璃が亮二の背をさすっている間に、喜一が全速力で家に走る。そして汗だくになりながら、水と薬を持ってきて亮二に飲ませてくれるのだ。
「喜一、兄ちゃん……薬、持ってきてくれねえかなぁ」
咳の合間に、亮二はそんな戯言を漏らす。
瑠璃は一瞬だけ手を止めたあと、静かに涙を零しながらまた亮二の背を優しく撫でた。
「なんで……どうして喜一兄ちゃんは、俺と瑠璃を置いていっちまったんだろうなぁ」
喜一は二度と戻らないという事実に、亮二はこのとき初めて向き合った。喜一は死んだ、もう帰ってこないのだと口に出しておきながら、亮二が誰よりもそれを受け入れられていなかった。
空咳を繰り返しながら、亮二の目からぽたぽたと涙がこぼれて落ちる。今ならこの涙も、咳のせいだと言い訳ができる。瑠璃は黙って亮二の背をさすりながら、自身も静かに涙を零していた。
暗闇の中、声を殺して泣く二人を、写真の中の喜一だけが笑って見下ろしていた。
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