魔法薬学研究所を追放された

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魔法薬学研究所を追放された

 私(リナ・ガルティライト)は魔法薬学研究所を追放された。  魔法薬業界からも追放されたので魔法薬の仕事はできない。  朝起きると、食事もせずに下請け仕事の魔法教科書の原稿作りをはじめる。  この国は魔法が発達しているため、以前は魔法を使って書かれていた。だが魔法を使って書くと書いた人が死んだら本文が消えてしまうというあまりにもおまぬけな事実が発覚し、それ以来、手書きで書かれるようになった。他国には印刷機なるものがあるらしく、魔法大国のプライドが邪魔するのか、機械を導入するしないで今だに揉めている。毎年生徒の数を入学に間に合うようつくらないといけないから大変な作業なんだが。  下書きは、主には前版を参考にするが、新しい魔法、魔法薬、魔道具など日々開発されている。プロセスが変わってより簡易に使えるようになったものもある。ニーズや状況ごと適用するものも時と共に主流が変わるのでその辺りは修正が必要だ。  資料が足りない時は、魔法アカデミーの図書館へ行く。ここには魔法に関するあらゆる本、魔法薬・魔道具等の登録目録が置いてある。魔法薬学研究所にも図書館があるが、追放された私は入れなくなった。残念だ。  アカデミーの図書館で足りなければ図書館の奥にある書庫へ入る。マニアックな古い本や資料があって、ここに入るのは事前の申請と許可が要る。  それでも知りたいことが書かれている本や資料がない、ということもよくある。  魔法薬学研究所を追放されても庭で薬草を育てたり、フィールドワークに出て、新たな素材で魔法薬を開発している。仕事をしながら個人でちまちまやっているから研究所に比べるとスピードは落ちる。でも、私が生きていられるのは、仕事と、自分の研究があるから。細々でも好きなことをできる。それが生きがいになっている。  私は養祖母が亡くなった時に譲り受けた家に独り暮らしをしていた。キッチンだけリフォームする時に最新のキッチン魔法具を取り入れているのが密かな自慢だが、その割に、ろくに料理をしていなかった。  そんなある日、背の高い男が訪ねてきた。小柄な私は、玄関を開け、見上げるように男の顔を見た。普通に純朴な青年に見えた。 「どなたですか」 「僕だ」  首をひねる。知り合い? 顔を忘れた? いや、会ったことないハズ。 「だれですか?」 「僕ですッ!」 「ボクデスさん?」 「元魔王だと言っているだろう!」 「は?」    

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