もう一度、君と出会う

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 朝食を食べ終えた頃、玄関の呼び鈴が鳴った。  こんなに朝早く誰だろうと、私は少し不思議に思いながらも玄関へと向かい、扉を開けた。  立っていたのは背の高い若い男だった。私は一瞬どきっとした。背格好がシンと似ていたからだ。だが、顔が違った。別人だ。  冬の灰色の空のもと、小さな失望が私の身体を更に冷やす。だが、にこりと微笑んだ男の一声がすべて吹き飛ばした。 「僕だ」  私は、その声を知っている。でも顔が違う。私は、思わずあの時と同じ言葉を口にする。 「だれ……ですか」  彼は嬉しそうに微笑むと私を押し込めるように玄関の中に入って来る。 「ちょっと、勝手に……」  私が言い終わるより早く、彼の顔からしゅわしゅわと煙のようなものが立ちこめた。煙が晴れると見知らぬ若い男の顔はシンの顔になっていた。変身魔法の一種だ。顔だけを短時間とはいえ、そんなに簡単に使える魔法ではない。 「顔だけ変える魔法を身に着けたんだ。あんなことしたあとですぐ帰ったら、リナに迷惑かけると思って……」  私を気遣って半年時間を置いたってこと? その間に魔法を身に着けたってこと? 私はそれをいい判断と思う一方、違うでしょとも思う。  シンは、困惑している私を構わず抱き締めた。 「シ、シン?!」 「あのあと、すぐ人間に戻ったんだ」 「やっぱり、あれはシンだったのね。良かったじゃない。ドラゴンになれて」 「うん、でも、思ってたのと違った。リナがいなくて寂しかった」  全身が熱くなる。心臓の音を聞かれてしまう。 「僕、本当は初めて会った時からリナのことが好きだったんだ」  へ? 「かわいいなって。意識したらドギマギして子供の頃の変な話し方に戻ってしまって」  え、そうだったの?  ふと、シンの胸の辺りに、親指ほどの大きさのものが複数並んでいるような固い感触があるのに気が付いた。  シンは腕をほどくと、悲しげな顔をして胸元を開いて見せる。 「母が死んだ頃、急に生えてきたんだ」  心臓のあるあたりを中心にして、胸の辺りだけ黒い魚の鱗のようなものが放射状に生えていた。なんの予備知識もなくいきなりこれを見たらとても怖かったかもしれない。変な誤解をして追い出して、彼を傷付けていたかもしれない。でも今私は、シンのことをどんな人か知っていて、だから冷静に見ることができる。 「最初、自分がどうなるのか怖かったけど、もしかしたら子供の頃から夢だったドラゴンになれる兆しかもしれないって思い切って王都に出てきたんだ。でも自分でもどうやってドラゴンになったらいいか分からなくて、その時あった一番近くのギルドに入ってみたんだ」  いきなりドラゴンになりたいと言っても変な奴だと思われると思い、緊張して上手く話せず、変な喋り方をしてしまったらしい。結局ヤバい奴だと思われて、とりあえず追放された奴――つまり私――にでも押し付けとけ、となったようだ。ははは。  

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