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結局、僕の涙が止まるまでには、五分以上の時間がかかった。涙を流したからといって、深雪とのことがどうにかなるわけでもない。わかっていても、止めることができなかった。
「そんなになるくらいなら、どうして、グッと堪えることができなかったんです?」
後輩は相変わらず心配そうな表情を浮かべたまま言う。
「そうだよな。僕が悪いんだ。わかってる。だから、深雪には幸せになってもらいたいと、僕は本当にそう思っているよ。僕が幸せにしたかったけど、僕にはできなかった。本気で愛していたから、何があっても、一生忘れることはできないだろうし、一生嫌いになることなんてない。いま、僕に言えることはそれだけだよ」
「そうですか。わかりたした。今日はとことん付き合うから、じゃんじゃん飲みましょう」
「そうだね」
僕と後輩は、ジョッキを軽く合わせてからビールを喉に流し込んだ。だけど、どんなにビールを流し込んでも、僕の口の中からモサエビの甘みと旨味は消えてなくならない。まるで深雪との思い出のように、消えることなく、ずっと僕の口の中にとどまり続けるのだろう。
【完】
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