半月の向かう先は満月か、それとも新月か

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半月の向かう先は満月か、それとも新月か

 冬のボーナスの明細を見つめながら、増田慎之介は深くため息を吐いた。そこに表示されているのは一ヶ月分の給料にも満たない、本当にお情け程度の金額。たしかにこの数年、不況の影響で会社の業績は右肩下がりだから、ボーナスの支給額が下がるのは仕方ないし、本当のことを言えばボーナスが出るだけありがたく感じなければならないのかもしれない。とはいっても、住宅ローンのボーナス払いの額にも満たない金額では、生活すら危ぶまれてしまう。  辺りを見回すと、あちこちで同僚たちが慎之介と同じように、暗い表情を浮かべてため息を吐いていた。会社全体が重苦しい雰囲気に包まれて、とても明るく楽しく仕事をしようという雰囲気ではなくなってしまっている。みんな、慎之介と同じように住宅ローンを抱えていたり、そのほかのいろんな支払いを抱えているに違いない。だからといって、徒党を組んで社長に直談判に行くというわけにもいかない。社長が社員よりもずっと少ない給料で、もちろんボーナスを取ることもなく、必死に会社の経営に当たっていることは、社員なら誰でも知っている。ボーナスが少ないのはたしかに辛いことだが、会社が倒産して路頭に迷うよりは、どう考えてみてもずっとマシだ。  街に出るとビルは色鮮やかな電球に飾られていて、あちこちからジングルベルの音が聞こえてくる。子どもたちのクリスマス・プレゼントも用意しなければならないのだが、望むものは買ってやれそうにない。長男の健一郎は流行りのポータブル・ゲーム機が欲しいと言っていたし、長女の絵梨佳はスマートフォンが欲しいと言っていた。どちらもそれなりに値段が張るし、生活すらままならなくなるかもしれないという状況の中で買い与えてやれるものでもない。もちろん、買ってやらなければ買ってやらないで、子どもたちはひどくがっかりと肩を落とすだろうが、状況を説明して納得してもらうよりない。慎之介は落胆して不貞腐れる子どもたちの顔を想像して、深くため息を吐いた。

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