半月の向かう先は満月か、それとも新月か

45/47
前へ
/47ページ
次へ
「そういうわけじゃないよ。ただ、僕はみんなに笑顔になってもらいたかったんだ。もっと楽な生活をさせてあげたかったんだ」 「だから、それは気持ちだけで十分って言ったはずよ? あなたは私たちに楽な生活をさせてやりたいって言うけど、結果はどう? 今回だって、四万二千円がただの紙屑になったわけでしょう? 四万二千円もあったら、いろんなことができるし、いろんなものが買えるわよ。健一郎にだって、絵梨佳にだって、欲しがっているものを買ってあげられる」  美也子の言葉に、慎之介は項垂れて黙り込む。美也子の言葉は的を射すぎていて、慎之介には返す言葉もなかった。前回と今回で、合計八万四千円。それだけあれば、健一郎のゲーム機も、絵梨佳のスマートフォンも買ってやれるし、美也子にだって新しい服やアクセサリーを買ってやることだってできる。現実に戻ってみれば単純な話なのだが、慎之介に灯ってしまっていた熱は、そんなことすらも忘れさせてしまっていた。 「あのね、あなたはLOTO6の予想方法の研究に夢中になって、健一郎をパソコンの前から追い払ってたけど、あの子がパソコンで何を調べてたか知ってる?」  美也子の問いに、慎之介は黙って首を横に振った。 「あの子の周りの友達は、みんなゲーム機を持ってるのよ。だから、あの子も欲しがってるの。それはわかってるわよね?」 「ああ、わかってる」 「だけど、あの子はあの子なりに考えて、私たちに無理をさせないように気を遣ってるの。ゲームを持ってなくても、友達と話が合わせられるようにって、インターネットでゲームの情報を調べてたのよ。そんなあの子の気持ちが、あなたにわかる?」  その言葉に、慎之介の心の中は、一気に健一郎に対する申し訳なさでいっぱいになる。申し訳なくて、悔しくて、思わず涙が零れそうになるが、唇をキッと噛みしめてそれを堪える。だけど、そんな慎之介に追い打ちをかけるように、美也子は言葉を続ける。

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加