第6話 私を誰だと思ってるの?

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 冷静に考えたら、人間であるアスターがカイエを食べるわけがないのだけれど、カイエを見つめるアスターの視線はどう考えても獲物を狙う獣。  この場合、文字通り「獲物」として狙っているわけではないだろう。色恋沙汰に疎いカイエだってそれくらいはわかる。  アスターから感じた恐怖の正体はこれだったのだ。  狙われている。私の貞操が。  冗談じゃない。 「待って……アスター。私、ぜんぜんあなたのことを知らないんだけど?」 「これから知っていただければ十分です」 「あなただって私のことを知らないでしょうが」 「よく存じあげておりますよ。あなたは優しくて情に篤い。俺のことも見捨てなかったし、姉上の頼みもこうして聞いている」 「あなたを見捨てなかったのはたまたまよ! うぬぼれないで。姉さんは身内だから当たり前でしょ」 「あなたの気の強さも織り込み済みです。これは口説き甲斐がありそうだ」 「勝手にロックオンしないでよ! 人間のくせに! 私は魔女よ!? あなたとは違うの、化け物なの! 姉さんみたいに割り切れないから、人間とは一緒に生きられないのよ!」 「俺もたいがい化け物だと思いますよ。あなたに心の内を見せられなくて残念だ」 「あっ、なんかそれは見たくないかも」  焦ったカイエににっこりと笑って、アスターが立ち上がる。 「騒動を収めてきますので、ここにいてください。部屋は自由に使ってくださってけっこうですが、外出はなさらないように。……たとえ逃げても、俺は逃す気はありませんけどね」  そう言って転移の魔法陣を輝かせて、アスターの姿が消える。  カイエはほっと息をついた。  アスターを前にしている間、ずっと身構えて体に力を入れていたので、どっと疲れが出る。  ――なんか、すっごくめんどくさそう……。  アスターという存在が。  関わるとろくな目に遭いそうにない。    逃げよう。  カイエもまた立ち上がると、玄関に向かった。  が。 「なんっで、あかないのよっ」  玄関のノブを掴んだ瞬間、弾き飛ばされてしまった。  よくよく見たら淡く封印の魔法陣が玄関に浮かび上がっている。  これはもしかして、と窓に向かう。  窓は開いた。  が、外に出ることはできなかった。  幕のような結界が張られており、その先に行くことができないのだ。  普通の人間に作ることができないほどの、強固な「檻」に閉じ込められているようだ。 「ふううん……?」  きれいな顔をしてなかなかゲスい、あの聖騎士。 「いい度胸じゃないの、人間のくせに。私を誰だと思ってるの?」  姉の持ち物だけど拝借してもいいだろう。  カイエは縦長の瞳孔を開くと、手のひらに虹色のうろこを呼び出した。

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