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遠距離恋愛中の恋人が住む街に、自分も住むことが決まったならこれほど幸せなことはない。電話を切った後の寂しさや、街行くカップルを見ながら羨ましがる日々ともうおさらばなのだ。だが、逢阪はせっかく浅倉との遠距離恋愛が終わり、恋人の暮らす街に引っ越しをするというのに、一向に気持ちが晴れない。引っ越し作業をしながら、ため息をついたのは何回目だろうか。
そのため息の原因となったのは一ヶ月前のある日。逢阪が浅倉と電話している時のこと。
『辞令、もらったよ。来月からそっちだって』
『そうか。思ったより早かったな』
『お前が人事部に駆け寄ったんだろ。浅倉支店長さまに言われたんじゃ、本社もすぐ動く』
逢阪の異動話を聞いて、整備士メンバーはもちろん店のスタッフみんなが残念がってくれた。中でも二人の仲がバレている土井にはかなり責めてきて……
『ちょっと、浅倉支店長の仕業なの? 公私混同もいいところじゃないの。私たちのマスコットの逢阪くんをさらっていくなんて』
さらうって人聞きの悪いことをと言いながら逢阪は苦笑いするしかなかった。
『一ヶ月後が待ち遠しいな』
そんなことを逢阪は呟いていた。
「逢阪ってば」
近くで自分を呼ぶ声に驚いて、逢阪は持っていた工具を落としそうになった。振り向くと真後ろに田城がいた。
「あービックリした」
「何回も呼んでたんだけどな……」
田代は呆れたような顔をして、逢阪に書類を渡す。
「明日のお客さんの作業書、渡しとく」
へいへい、と逢阪がその書類を受け取り、内容を確認する。そんな様子を見て、田城が小さなため息をついた。
「どしたの、田城。ため息ついて」
「お前がいなくなると思うと、寂しくてさ」
「寂しがってくれるんだ!」
「だってお前、使いやすいんだもん」
「どういう意味だよ!」
むくれて口を尖らせる逢阪に、田城は少し寂しそうに笑う。
「安心して作業も頼めたし、色々やってくれるし。頼りにしてたのにな。次から誰に頼ろうかな」
「……田城」
恋人である浅倉の近くに住めるのは嬉しいが、やはりこの店を出るのは少し寂しい。みんなと仲が良かった分、離れがたいのだ。さあ、飯だと照れ隠しに事務所へと向かう田城。逢阪も書類を置いて、ついていく。
通勤前に買ったコンビニ弁当を開きながら、ふと田城の弁当が手作りであることに気づいた。
「お、手作りかよ。土井さん、頑張るね」
数ヶ月前に付き合い始めた田城と土井は、いつの間にか同棲を始めていた。
「まあね、頑張ってくれてるよ」
照れながら、弁当の蓋を開ける。美味しそうなおかずをチラッと見ながら無意識にのろける田城がうらやましくて仕方がない。手作お弁当に対してではなく、同棲していることを大っぴらに言えることがうらやましいのだ。
「で、そろそろ結婚の話は出ないの」
しばらくして逢阪がそういうと、動揺したのか田城が箸からおかずを落としてしまった。
「急にそんな話、すんなよ!」
「だって土井さんもういい歳でしょ」
「お前あいつにしばかれるぞ……まあ、出てないと言ったら嘘になるかな」
「まじで?」
「俺らのことは置いといて、向こうで浅倉支店長のとこに住むのか?」
田城の一言に、逢阪は思わずむせた。
「な、なにっお前っ、でかい声で……!」
「同棲しちゃえよ。意外と支店長、その気かもしれないぜ」
その日の夜。浅倉と電話先で引っ越しの話となり逢阪は昼間、田城と交わした話を思い出す。一緒に住もうとか言われたらどうしよう、などウキウキしていたが浅倉の反応は期待したものではなかった。

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