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このままの生活が辛いわけではないけど、自分の部屋に帰った時の、寂しさはいつまで経っても慣れなかった。きっと浅倉は転勤がないことを確認してマンション購入のことを伝えたかったのだろう。もしかしたら浅倉のほうが、早く逢阪と一緒に暮らしたかったのかもしれない。
チャーハンのファーストバイトに、同棲宣言。一日でこんなサプライズが続くなんて。
「全く、今日はなんて日だ」
逢阪はそう言って浅倉にキスをした。
***
それから半年後。引っ越し作業を何とか終えて、段ボールがまだ残る新居での記念すべき初日。ヘトヘトになりながら、とりあえずきりのいいところまで片付けを済ませた二人は一息つくことにした。
「初日の祝いにビールでも飲みたいところだけど、もう遅いし、明日も仕事だもんな」
逢阪は真新しいキッチンに立ち、湯を沸かす。
「遼、ミルクティーでいい?」
いつも家ではミルクティーを飲む浅倉。当然イエスだろうと思っていたが、答えは意外なものだった。
「いや、祐希と同じコーヒーでいいよ」
あれっ、と逢阪は首を傾げた。家にいる時は、ミルクティーを必ず飲んでいるのに……
「何でコーヒーなの?」
テーブルにコーヒーを二つ置いて、逢坂が聞く。すると浅倉はコーヒーを一口飲むとこういった。
「もうミルクティーで頭安らげなくてもいいからな、これからは祐希がいてくれるから」
「……え」
「お前が安らげて、甘えさせてくれるんだろ」
その言葉を聞いて、逢阪は耳まで真っ赤になった。この恋人はこんなに甘い言葉を、さらっと言うのだ。きっとこれからも。
(負けないようにしなきゃ)
俺だって、大好きなんだから。
数日後。部屋のチャイムが鳴って、玄関を開けると見覚えのある顔がいた。
「逢阪。元気そうだな!」
「田城さん、久しぶり!」
そこに立っていたのは、田城と土井の二人。身重になった土井と寄るからと連絡が入ったのだ。田城は再会を喜びはしゃいでいたがやがて玄関に出てきた浅倉の姿に慌てる。
「久しぶり」
「おっ、お疲れ様です! 浅倉支店長」
田城の言葉に浅倉が苦笑いする。
「職場じゃないんだから、堅苦しい挨拶はやめてくれよ。さあ奥にどうぞ」
優しい言葉をかけられ田城が苦笑いする横で、土井と逢阪は笑った。
リビングで近況報告をしながら田城が呟く。
「総務はなにも言わなかったんですね」
その問いに答えたのは浅倉だ。
「驚いてただろうけどな。……これから増えてくるかもしれないしな」
この先そういうカップルが出るとも限らない。前例があれば彼らも暮らしやすいだろう。浅倉の左手の指輪と同じものが光る逢阪の手を見ながら、田城が口元を緩めた。
「逢阪が幸せそうで、よかったっす! 今度はうちに来てくださいよ」
「そうだな、赤ちゃん見に行くよ」
ぜひ、と田城。その隣で土井の大きな腹を逢阪はゆっくりさすりながら笑顔を見せていた。
二人が帰ったあと、大きく背伸びをして浅倉に逢阪が入れたコーヒーを差し出した。
「ありがとう、遼。一緒にいてくれて」
「俺も久々に二人に会えて楽しかったよ」
香りを味わいながら、浅倉はゆっくりと飲む。
「それにしてもさあ、あの時の飲み会にいたメンバーがまさかこんな感じになるなんて、わかんねーもんだなあ」
彼氏と別れたばかりの土井が田城と一緒になり、苦手だと思っていた浅倉と逢阪が一緒になり。互いに人生の伴侶として選んでいる。不意に自分の左手につけている指輪に目をやった。それはマンションを契約したその日、浅倉が逢阪にプレゼントしたもの。大きな石のついている指輪ではなくシンプルな指輪だ。仕事の時は、指輪で車を傷つける恐れがあるので外しているが、休みの日は嬉しくてずっとつけている。
(本当に、わかんねぇもんだな)
「祐希、どうかしたか?」
「ん、なんでもない。それより、夕食何が食べたい?」
こんな些細な会話すら、嬉しいだなんて。恥ずかしくて言えないけど、きっと浅倉にはバレている。
願わくば、こんな日々がずっと続きますように。
【了】

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