第三十四章

5/6
前へ
/208ページ
次へ
噂になればいい。 俺と真奈ちゃんが付き合っていると、会社中に噂になればいい。 彼氏持ちの女に、そうそう男達も言い寄っては来ないだろう。 至るところに視線を感じながら、俺は、そんなことを思っている。 その俺の後ろから、真奈ちゃんは、俯きながらついてくる。 ドア付近には、さっきの女達がいる。 うちの会社の、噂のネットワークはかなりなもの。 それも、女性社員の、噂のネットワークは、ちょっとしたことも、あっという間に広まってしまう。 そのネットワークを利用しない手はない。 真奈ちゃんとの関係を、一秒でも早く広めたいと思っている俺は、彼女達の間を通り抜けながら、 「真奈、今日は寝る前にちょっと酒でも飲んで寝ようか?」 ここぞとばかりに、深い関係を匂わすような発言をする。 その言葉に、 「「「えっ!?」」」 周りにいた、女性社員全員が反応した。 本日三度目の、悲鳴にも似た声が、部屋の中に響き渡る。 その部屋から、手を繫いだまま抜け出し、廊下に出ると、 「ちょちょっとレインさん、どうしてあんなこと言うんですか?」 眉間にシワを寄せた真奈ちゃんが、責めるような口調で聞いてきた。 真奈ちゃんのことだから、そう言ってくるんじゃないかと、予想はしていた。 仕事は仕事。 プライベートはプライベート。 真面目な真奈ちゃんのことだから、その辺はちゃんとしたいのだと思う。 でも、俺としては、仕事に集中できるようにする為にも、真奈ちゃんは、俺のものだと、みんなにアピールしておきたい。 特に、男性社員には、真奈ちゃんに、いい寄ったりしないよう、釘をさしておきたいぐらいだ。 確信犯ではあるけれど、 「あんなことってなに?」 なんのことだか解らない、ってふりして流そうとする。 そんな俺に対して真奈ちゃんは、 「今言ったじゃないですか。寝る前に酒でも飲んでからみたいなことを…あんなこと言ったら、一緒に暮らしてるのがバレバレじゃないですか…」 追い打ちをかけるようにして、責めてくる。 責められた俺は、足を止める。 「なに?…一緒に暮らしてることがバレたらダメなのか?…うちの会社は、社内恋愛禁止じゃないだろ?」 別にバレてもいいだろ… そう思い、開き直ってしまう。 「禁止とか、そういうことじゃなくって…いろいろ噂されてしまうのが…」 「そんなの気にしなければいいだろ」 「気にしなければって…」 真奈ちゃんが嫌そうな顔をした。 「なに?…俺と噂されるのが嫌なのか?」 本気で嫌なのかと思ってしまい、気持ちがへこんでいく。 「嫌とかそういうことじゃなくって…。私だけなら、あれこれ言われてもいいけど…レインさんがあれこれ言われたりするのが嫌だから…」 俺が、あれこれ言われるのが、嫌だと言ってくる。 前にも、似たようなことを、言われたような気がするけれど… 俺に関してなら、 「言いたい奴には言わせておけばいいだろ」 俺は、そう思っている。 それに、 「俺としては、真奈と付き合ってることが、会社中に広まればいいと思ってるんだけど…」 俺がどうこう言われるよりも、真奈ちゃんに、男が寄って来る方が耐えられない。 「広まればって…どうして?」 「どうしてって…」 そんなことも解らないのか? 「…そんなの男よけに決まってるだろ。…ほら、帰るよ」 男に言い寄られているという、自覚のない真奈ちゃんの手を引っ張り、俺は歩き出す。

最初のコメントを投稿しよう!

1084人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>