白銀と無魔

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 『生き返りの妙薬』を手に入れる。それが俺のダンジョンに潜る理由だ。    相対するのは巨大なドラゴン。俺の身長なんかより何倍も大きく、口から火を漏らして俺を睨んでいた。  洞窟状のダンジョンに居座るドラゴンは、生半可な冒険者をその先へと向かうことを許さない門番だ。    俺の装備は紺色のローブと、大金を叩いて買った転移石が一つ。   「氷槍」  呪文を唱えると、背後に無数の魔法陣が浮かび上がる。 「グギャア!」  ドラゴンが叫んでブレスを吐くが、遅い。  ヒュンと風切り音を立てた氷槍がブレスを掻き分けて、ドラゴンの頭を貫く。    猶予も容赦もない一撃で頭を失ったドラゴンは、最後に一度だけ身体をビクンと跳ねさせてその場に倒れた。  地響きを立てて生命活動を終えたドラゴンの身体は地面に溶けて、残ったのはひとつの宝箱だけ。  ダンジョンの魔物は稀に、こういった宝箱を落とす。  中身はモンスターによって違うが、同じ種類のモンスターからは、同じものしか落ちない。  ダンジョンにかけられた魔法によって、魔物の身体から作ってるとか、ダンジョンが人を誘き寄せる罠だとか、色々と言われているが真相は分からない。  ダンジョンのルールのようなものだ。  俺は宝箱を開ける。中に入っていたのは透明の瓶に入ったエリクサー。  どんな傷も病も治す秘薬だが、それは対象が生きていて、肉体がある前提の話だ。生憎俺に必要なものではないが、換金すれば良い金にはなる。 「あ、おい! 無魔!」  ダンジョン探索を切り上げた俺がギルドに入ると、受付から呼ばれる。  酒臭い怒号が飛び交うギルドの中は、いつも以上に人でごった返していた。    俺に手を振っているのは、どこか安堵した表情の大男。背中には巨大なハルバードを背負っており、華奢な受付嬢に並んで立っていると世界の縮尺がおかしくなったかと錯覚する。 「どうした、マスター」  ギルドのトップである彼が、わざわざ受付に来ることなどそうそうない。  人混みをかき分け受付に着くと、マスターの前に誰か立っている。  光を反射して白く光る銀色の鎧を着た女性が振り返る。  止まる呼吸。  靡く銀髪に、その顔立ちがあまりにも彼女に似ていた。  その瞳が紫じゃなければ、俺は本気で同一人物だと思っていただろう。 「あなたが無魔さんですか!?」  その紫の目で俺の赤い目をじっと見つめて手を掴む。ひんやりとした金属の冷たさに冒険で火照った手が包まれる。   「そうだが、あんたは?」  『無魔』は実際の名前ではない。Sランク冒険者になったやつに個別で送られるギルドの付けた二つ名だ。 「はい! 私は白銀です! 私とパーティ組んでください!」  元気な声だ。歳でいえば二回りは下だろう。もう四十になる俺には、あまりにも眩しく、ほとんど親子のような歳の差だ。  『白銀』……二つ名持ちということはSランクか。白銀がいれば、『生き返りの妙薬』を探すのも早くなるだろうが――。 「悪いが、パーティを組む気はないんだ」

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