0人が本棚に入れています
本棚に追加
とある剣と魔法が支配する異世界。そこのある王国の王都では、今日も神官が空に向かって祈りをささげた。
その様子を見守る王侯貴族の心配そうな顔。王国は異常な旱魃が続いていて食料が尽きかけていた。
やがて黒い雲が空にチョコンと出現し広場の全員が興奮した声を上げたが、すぐに雲は散って消えてしまった。
神官は広場に集まる王侯貴族と商人たちに言った。
「まだ空の神々への貢物が足りないようです。さあ、もっと金銀財宝を神殿に差し出すのです」
その場を去り際に神官はニヤリと笑ってつぶやいた。
「ふふふ。これでまた儲けが増える」
同じ頃、一人の幼い女の子が王都のはずれの丘を散歩していた。すると女の子は小さなドラゴンが、片足に鎖をつながれ、その鎖は大きな岩に巻き付けてあった。
「ドラゴンさん、ここで何してるの?」
女の子が尋ねるとドラゴンは弱々しく答えた。
「ひどい人間たちに捕まって雲を呼んで雨を降らせろって言われたんだ。でも僕はまだ子どもだから雨までは呼べないんだ。できるまでここにつないでおくって言われて」
女の子はポケットにあったビスケットをドラゴンに食べさせてあげた。それから毎日、女の子はドラゴンに会いに来ていろいろお話をした。
女の子はドラゴンが仲間の所へ帰りたがっている事を知り、ある日その女の子にとっては大きなハンマーを担いできた。
「私のお父さんは鍛冶屋さんなの。お道具借りてきたから鎖切ってあげる」
数時間のハンマーとの格闘の末、女の子はドラゴンの足をつないでいる鎖を叩いて輪っかを壊す事が出来た。
自由になった子どものドラゴンはうれしそうに空に向かって咆哮を響かせた。
「大人の仲間が何匹も来てくれるみたいだ。ありがとう、お嬢ちゃん。何かお礼がしたいけど、何か欲しい物とかある?」
ドラゴンがそう訊き、女の子はしばし首を傾げて考えた。そして言った。
「やっぱり雨を降らせて欲しいかな。私とお父さんは今日の夕方にこの町から出るけど、王都の人たち、本当に困っているみたいだし」
「どのぐらいの雨を降らせればいいの?」
「神官様は百年に一度のひどい日照りだとか言ってたよ」
「そうか、分かった。仲間が着いたら雨を降らせてもらおう」
「じゃあドラゴンさん、元気でね」
「うん、ありがとう。君も気をつけて旅立ってね」
翌日、王都では一日で過去百年分の雨が降った。
その王都が救われたのかどうか、その点は歴史に記録がないため、定かではない。
最初のコメントを投稿しよう!