8 ダドリーとジーネヴィラ 出逢い直す  

2/3
前へ
/29ページ
次へ
「ダドリー様、どうかお聞きください。わたくしは、初めてお目にかかった高等貴族学院の入学式の日から、ずっとあなたに恋をしておりました」 「高等貴族学院の入学式の日? わたしは、入学式に間に合いませんでしたし、王女様をお見かけした記憶はございませんが――」  ジーネヴィラは、ダドリーの言葉を聞くと、ドレスの隠しからレースの手巾を取り出し、さっと顔の前に垂らした。  赤い唇の端をきゅっとあげた彼女の笑顔が、ダドリーの記憶を呼び起こした。 「えっ? ええっ? あ、あなたは、確か、ジーナ・ラングトン公爵令嬢だったのでは――」 「わたくしは、どうしても学校へ行ってみたくて、身分を隠し、公爵令嬢として高等貴族学院へ通っておりましたの。あの日、わたくしの目に映ったあなたは、誰よりも誠実で清らかな輝きに溢れていました。でも、あなたにはすでにアリシア王女という婚約者がおり、わたくしの恋が実を結ぶことはないとあきらめていました――」  ジーネヴィラは、悲しげに一度目を伏せると、胸を押さえて息を整えた。 「あなたの従者が亡くなったとクラリスから知らされたとき、わたくしは、何とかしてあなたを慰め勇気づけたいと思いました。ちょうど、逃亡したフェルディナンドのことを調べる必要があって、わたくしは迷わずグレネル王国行きを決意したのです。幸い、この国には、わたくしが頼みとできる人々もおりましたので――」  そこまで話すと、ジーネヴィラは、ぐるりと「花冠の間」を見回した。  協力者であるラングフォード公爵夫人やイブリン・ウェズリーの姿を見つけて会釈をすると、彼女は話を続けた。 「しかし、事態はもっと深刻でした。その頃フェルディナンドは、すでに幾人もの貴婦人に取り入り、アリシア王女に近づく機会を得ると、あっという間にその心を掴んでしまったようでした。あなたがアリシア王女から婚約を破棄されたことを知ったとき、わたくしは複雑な気持ちになりました――」  人々は、アリシア王女の誕生を祝う宴の顛末を思い出した。  脇役となってしまったダドリーは、消えるようにこの部屋を去って行った。  だが、その裏で思いも寄らない新たな物語(ドラマ)が始まっていたのだ。 「わたくしは、親しい人々の力を借り、必要な情報を集めながら、従者となってダドリー様に仕えました。あなたに自信を取り戻させ、心友であるクラリスを安心させるために――」  あの日、婚約者を捨て、軽薄な貴公子と抱き合っていた王女は、もうここにはいない。そして、王女に婚約破棄をさせ、妙に浮かれていた美貌の卑怯者も、もうここにはいない。二人とも、人々が望む物語からはすでに退場していた。

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加