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『大切なものは、ないないするんだよ』
大好きなママの言葉を今でも思い出す。
僕が大切にしているおもちゃを片付けないでいたら、ママは僕のおもちゃを優しく宝箱にしまってくれたんだ。
「無くしちゃったら嫌でしょう?だからね、ないないして大事にしまっておくのよ」
「うん、わかった!」
僕は、ママと一緒に大切におもちゃをないないしたんだ。
「ぼく、ママのことが大好きだよ」
僕はそう言いながら、ママにギュッと抱き付いた。
おもちゃも大切だけど、僕にとって一番大切なのは『ママ』なんだ。
◇
久しぶりに夢を見た。
母親の記憶はほとんどないのだけど、この場面はよく夢に見る。
僕の心にしっかり植え付けられた記憶なんだろうけど、なぜこの記憶だけ鮮明に覚えているのかは分からない。
僕は部屋のカーテンをサーっと開けると、窓から差し込む朝日を浴びた。そして大きく伸びをする。
そのまま時計に目をやると、約束の時間まで1時間を切っていた。もっと早く起きるつもりだったのに、今日の約束が楽しみすぎて、なかなか寝付けなかったんだ。
僕は急いでシリアルと牛乳をお腹に入れると、身支度を整えた。少しでもよく見えるように、何度も鏡の前で姿勢を変える。
そうこうしているうちに、部屋のドアがノックされた。
「トア、おはよう。もう支度できてる?」
ドアの向こうからは、大好きな人の声。僕は急いでドアを開け、迎え入れる。
「エルド、おはよう!待ってたよ!」
ジャンプするようにエルドの胸に飛び込み、思い切り息を吸い込んだ。
「施設長にあいさつをしたら、行こう」
「うん!楽しみだな。魔法を使えば、一瞬でエルドの家に行けるのに」
「こら、気軽に空間魔法は使っちゃダメだって、いつも言ってるだろ?」
「はーい」
僕は口を尖らせながら、渋々返事をした。
普段とても優しいエルドだけど、空間魔法のことだけはとても厳しい。
それは、初めてエルドに出会った時からだった。
◇
僕の両親が事故に遭い、天涯孤独になった僕をこの施設に連れてきてくれたのが、エルドだという。
エルドは5歳年上で、家庭環境が悪く施設に預けられたらしい。
僕には施設に来た頃の記憶が曖昧で、両親のことも、エルドに出会った時のことも、覚えていない。
ただあの夢だけは、よく見るんだ。
この国のほとんどの人が、火や水などの一般魔法が使えるのに、僕は空間魔法だけしか使えない。
僕が空間魔法を使えることを知っているのは、エルドだけだ。
僕がこの施設に来たばかりの頃、エルドは空間魔法を使えることをすごく褒めてくれた。
けど、便利な反面、使い方を誤るととても危険だということも教えてくれた。
だから、人前では決して空間魔法を使わないようにしている。
施設のみんなには、魔法が使えない出来損ないだと思われていて、僕は仲間外れにされていた。
けど僕のことを理解してくれる、エルドがいる。ずっと僕に寄り添ってくれた。
いじめられたら庇ってくれたし、一人でいたら話し相手になってくれた。
僕の中で特別な存在になるのには時間はかからなくて、エルドといる時間は楽しくて充実して、幸せな気持ちでいっぱいだった。
まだ子どもだった僕には、その感情がなんなのかはわからなかったけど。

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