チニタ氏の話 1

1/1
前へ
 /45ページ
次へ

チニタ氏の話 1

 拙作「私のカタチ」に名前を出させていただいた彫刻家・砂澤ビッキ氏は実在の人物である。1931年生まれ、1989年逝去。だからご本人とは全く接点がなかったのだが、執筆に際してはご子息砂澤陣氏にウェブ経由で連絡をとった。  私は「私のカタチ」でビッキ氏の作品「四つの風」も引用していて、その箇所も陣氏に(光栄なことに)目を通していただいたのだが、その時いただいたコメントで四つの柱からなるこの彫刻が、ビッキと三人の子供たちを象徴するものであったことをご教示いただいた。  三人の子供たちとは陣氏と、長男である音楽家のOKI氏、長女である画家・イラストレーターのチニタ氏のことだ。  この三名のうち、私が会ったことがるのはチニタ氏だけだ。本稿でするのは、その時の話だ。    私はその頃「私のカタチ」の準備のために、行ける限りのギャラリーを覗いて回っていた。大きな会場ではなかなかそんなことはないが、住宅に改装しても一人暮らしがやっと、ぐらいの面積で行われる個展などでは、作家が在廊していることが多い。私はそういう狭い会場でも数時間かけて作品を見るから、黙っていてもむこうから興味を持って話しかけてくる。    その日、ビルの上層にある小さなギャラリーを訪れたのは、そこにチニタ氏がいたからではない。ただ、展示の入れ替えの日を過ぎていたから、新しい作家がきているだろうと思っただけだ。    展示スペースに足を踏み入れた時、作者の姿は見えなかった。  砂澤チニタ。そういう名の作家がこの場にいる。入り口の壁にはそのような文言が記されていたが、私はぴんとこなかった。  その名がビッキの娘の名であることは知っていたが、美術の世界の文脈で、 彼女のことを聞いたことがなかったからだ。  

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>