故郷

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「すいませーん、画用紙ください」 甲高いユニゾンに顔をあげると、日焼けで真っ黒な小学生がふたり、玄関に立っていた。 プールの帰りらしい。 懐かしいビニールバッグを携えている。 えーと、画用紙?どこだっけ? 「はいはいはいはい、いらっしゃい。白いのでいいの?四つ切り?八つ切り?」 腰を浮かしかけた俺の横を、昼食の後片付けをしていたはずの母が猛スピードで擦り抜けていった。 「寛ちゃん、桃むいたからこっち来て食べな」 奥からのんびりした婆ちゃんの声が聞こえる。 「そうよ寛司。久しぶりに帰ってきたんだから、辛気臭い顔で店番なんかしとらんで、婆ちゃんと小粋なトークに花を咲かせてきなさい」 画用紙を持ちやすいように丸めてやりながら母が振り返る。 どこへ行っても大概そうだが、この家でも女は強い。 もともと寡黙だった父は最近さらに無口になり、その父の血を色濃く継いでしまった俺も無益な戦いはしない主義である。 特に抵抗する理由もないので、座敷に上がってよく冷えた桃にフォークを立てる。 一昨日の夜、ごく内輪で行った一周忌の法事に商店街仲間が供えてくれた中のひとつだ。 大輝の好物だった。
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