故郷

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それは少なからず俺を複雑な気分にさせた。 我が家において、夏とは大輝の為にある季節だった。 小さいときからひどい喘息持ちで何度も生死の境を彷徨った弟は、体力作りの為に始めた水泳に意外な才能を発揮した。 小学校の後半からはいくつもの大会でメダルやトロフィーを持ちかえるようになり、中学に入ると県下ではほぼ無敵。強豪の私立高校やクラブチームからの誘いもかなりあったらしい。 しかし、家族の生活が弟中心になっていくにつれ、俺は大輝を素直に応援できなくなっていった。 もちろんそれまでも、病気がちで手のかかる弟の存在によって我慢を強いられたことはある。でもそれは仕方ないのだと子供心に割り切れていた。 親の愛情が足りないとか不公平だと思ったこともない。 俺が不満だったのは…自分だ。 水泳の才能はもちろん、持ち前の明るさと要領の良さで、数えきれない程の友達に囲まれて日々を謳歌する弟。 なにひとつ憚ることなく、無邪気に生きる姿が羨ましかった。 たとえ俺のほうが明らかに勉強ができても、剣道でそれなりに良い成績を修めても。 名前通り、あいつの持って生まれた生命の輝きはに勝てる気がしなかったのだ。
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