故郷

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そのまま即入院となり、いくつもの検査を経て判明した事実。 医者も家族も、皆が完治したと思っていた幼い頃の病が、本人さえ気付かぬほど静かに大輝の体の中に巣食っていた。 若さと気力が病を隠し、同時に進行に拍車をかけ、ようやく表面化したときには既に手遅れだったらしい。 為すすべがないと告げられたと、母は言った。 家族で話し合って、大輝には命の期限を伝えないことに決めた。 弟の動向に無関心を決め込んでいた俺も、さすがに動揺した。 何かしてやれることはないかと、毎日必死で考えた。 何もなかったけど、毎日病室には通った。 単語帳のページを繰りながら、何時間も寝顔を眺めた日もあった。 起きているときは、ぽつぽつと話をした。 その時に大輝が背泳を好む理由も初めて知った。 ある日、珍しく帰り際に呼び止められた。 「兄ちゃん、Y大学受けるんだろ?Y大ってK県だよな。K県にさ、オレの…すげー…なんつーか、大事な奴がいるんだ。受かったらオレ遊びに行くし、そしたら紹介するから、だから頑張れよ」 白いカーテンに透ける真夏の夕日を背に、大輝は笑ってひらひらと手を振った。 それが、俺たちの最期だった。
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