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大輝がこの世からいなくなっても両親は泣かなかった。
告別式のあと、3日だけ休んですぐ店を開けた。
今までの夏となんら変わりなく母は愛想を振りまき、父は仕入れや配達に精を出した。
悲しくないはずがない。
泣いて泣いて、頭がおかしくなるほど泣き喚いて、疲れて寝込んで二度と立ち直れなくなっても、誰も責めたりしないのに。
でもあの人たちは泣かなかった。
いや、多分泣けなかったんだ。
泣いてしまったら、大輝の死が確かなものになってしまう。
私たちが頑張って前向きに生きていくほうが、あの子も喜ぶはずだと口癖にしながら、心の中ではあいつの死を受けとめかねている。
大輝の姿が自分たちの前から消えてしまったこと。
代わりに横たわる“不在”の存在感。
それを口にできるほど、まだこの家族は癒えていなくて。
それを見続けるのが恐くて、大学進学というもっともらしい理由を纏って俺はこの家から逃げ出した。
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