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「駅まで何しに行くんだよ?」
きらきらの川面と青草が繁る河川敷沿いの堤防を走る。
昔の日本映画の世界にいるようで心地良い。
「実家に帰るから、切符買いに」
「まさかそれが合宿来ない理由?」
俺は頷いた。
「実家どこだっけ?」
俺が新幹線なら1時間あまりで着く地方都市の名前を言うと、木崎は案の定「別に合宿終わってから帰ってもいいんじゃないの?」と言った。
「ダメなんだ。ちょうどその日に1年越しの約束があってな」
「1年?なんだよそれ。マジで女か?」
頭の上で聞こえる木崎の声が妙に真剣で、ちょっとおかしくなった。
そういえば幼い頃、ちょうど今みたいにあいつとよく二人乗りをして母に叱られたっけ。
後輪のステップにかかる重みと、両肩に置かれた手の小ささ、頭の後ろで響く甲高い声を思い出す。
あの頃があいつと一番よく喋ったなぁ。
あいつが中学に入って、俺が高校生になって…いつのまにか会話らしい会話がなくなった。
お互いそういう年頃だったと言えばそれまでだけど。
なぜもっと…思えばきりがない。
気が付けば、言うつもりのなかった言葉が口をついていた。
「弟だよ。一周忌なんだ」
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