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両肩を掴んでいる木崎の手がピクリと強ばった。
「冗談だろ?」
「マジです」
「オレ、そんなの聞いてないぞ」
「言ってないからな。」
できれば軽く流してもらいたくて普段の調子で言ってみた。
「まぁ一応そんなわけで。先輩には適当に話合わせといててくれればいいからさ、頼むわ」
背を向けているので、木崎がどんな顔をしたのかわからない。
やがて頭の上から、ボソッと声がした。
「…いくつだよ?」
「えっ?」
「弟。何歳だったのかって」
俺の表情を伺っているような、静かな声だった。
「3コ下。生きてりゃ高1かな」
「若ぇな」
「そうだな」
それから駅に着くまで、木崎は何も聞かなかった。
俺たちは自転車で生暖かい風をおこしながら、ひたすら先輩から聞いたくだらない話をして笑った。
別れ際、一言。
「日程なんていくらでも調整できるしさ。来年は一緒に行こうな、合宿」
笑いながら改札に消えていく出会って日の浅い友人に手を振りながら、俺はこの街に来て良かったとしみじみ感じていた。
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