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カラー禁止の校則を真面目に守っているのに、莉子の髪はほんのり明るいブラウン。
他に誰もいない放課後の教室で、あたしは絹糸のように滑らかなその髪を櫛で梳く。
この柔らかな手触りが、人形遊びに夢中になった子供の頃にリンクして、あたしの手のひらに微熱を持たせる。
「莉子は絶対オレンジが似合うわよ。高校出たら、あたしがカラーしてあげる」
「それじゃほんとにリコちゃん人形と同じになっちゃうじゃん」
あたしのおせっかいにも、莉子はいつも屈託なく笑って答える。
二人きりでフィルムの中に閉じ込められたみたいな時間。
長い髪が、夕陽の茜色に染められて輝きを増していた。
――…
高校に入学した日、隣の席のクラスメイトを見たあたしは息を呑んだ。
すとんと流れ落ちる髪と、眉の上で切り揃えられた前髪。お星さまが宿ったような黒目がちの瞳と濃いまつげ。ほっそりした手足。
女の子なら誰でも知っている着せ替え人形が、そのまま人間になったような子だったから。
初めて莉子を見たその日、あたしにはささやかな夢ができた。
そのちょこんとしたピンク色のくちびるで「桃」と名前を呼ばれるたび、胸がざわめいた。

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